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機械工学年鑑「流体工学」(2017年版)

まえがき

 流体工学は機械産業を支える基盤的学術分野であり,わが国をとりまく経済・社会の「大変革時代」[1] の中で,当該分野の技術革新(技術イノベーション)を今後も持続的に推進するためには,研究動向を正確に把握し情報を共有することにより,適切にその成果の活用を図ることが重要である.しかしながら,流体工学が関わる範囲は多岐にわたり,その全範囲の動向調査は困難である.ここでは,限られたテーマではあるが,乱流(数値計算・実験),混相流(数値計算・実験),圧縮性流れ,非ニュートン流体,希薄気体・マイクロ流,拡散・混合・反応流,自然エネルギー,噴流,騒音,環境流,流れの可視化,生体流れ・医療応用を取り上げて,2016 年における研究動向を示す.乱流の節は,数値計算と実験の2 つの項目に分けて動向調査が行われた.数値計算については,流体力学の代表的ジャーナルであるJournal of Fluid Mechanics(JFM)に掲載された論文をもとに研究概観が行われ,壁乱流の起源や渦構造の抽出や分類,乱流制御や抵抗低減,乱流モデリングの動向などが紹介されている.乱流の実験については, Particle Image Velocimetry (PIV)/Particle Tracking Velocimetry( PTV)による3D/4D/ボリューム計測,圧力場,高周波数計測の動向,乱流制御,壁乱流や円管内流の流れの構造の研究,壁面摩擦速度の計測手法などに関する研究が紹介されている.混相流の節も数値計算と実験の2 つの項目に分けて調査され,数値計算では,混相する各相を Euler 的あるいはLagrange 的に記述し,界面捕獲法あるいは境界埋め込み法を用いて相界面を捉える方法が多いことが指摘され,国内外の主要ジャーナルや国際会議での研究動向が紹介されている.混相流の実験については,主に,国際会議International Conference on Multiphase Flow 2016(ICMF2016)を基に研究動向が紹介されている.特に,分散した界面の問題を強く意識して,実験的にアプローチしようという研究例が増加しつつあることが指摘されている.圧縮性流れの節では,産業流体機器の高度化,高速化が指摘され.特に高速化の観点からは,ソニックブーム対策ための,圧縮波・衝撃波と乱流の干渉の実験的検証の必要性が示されている.非ニュートン流体の節では,高分子水溶液や界面活性剤水溶液,コロイド溶液に代表される粘弾性流体とそのレオロジーに関する研究動向が紹介されている.希薄気体流・マイクロ流の節では,国際会議第30 回Rareed Gas Dynamics(RGD)での動向が紹介され,マイクロ流に関して,マイクロ流体デバイスの進展とともに,センサー,化学分析,医療応用などの応用研究が各種国際会議で数多く発表されている旨が紹介されている.拡散・混合・反応流の節では,燃焼を除く研究が紹介され,拡散・混合の研究として,マイクロチャネル内混合,円柱後流の熱・運動量輸送の実験的研究,反応流については,酢酸と水酸化アンモニュームの中和反応に関する実験的研究が紹介されている.なお,数値計算による研究として,新しい混合モデルの紹介がなされている.自然エネルギーの節では,風力,波力,潮力,水力(特にマイクロ水力)等の研究が紹介されている.噴流の節では,工学機器における混合・拡散を促進するための噴流流れの分析と制御に関する研究が紹介されている.騒音の節では,基礎研究,応用研究の両面からの研究紹介が行われ,特に数値解析手法の文献紹介が詳しく行われている.なお,燃焼や混相流場での空力音の研究が新たな課題となること等が指摘されている.環境流の節では,大気環境に関する研究動向を中心に,国内外での学術講演会や学術雑誌での研究紹介や大気環境影響評価で使用される気象モデル等が紹介されている.流れの可視化の節では,蛍光,燐光を利用した圧力や温度の可視化手法が紹介されている.また,マイクロ流への展開や流速の低い流れや大きなスケールの高速流れに対するPIV による可視化研究が紹介されている.最後に生体流れ・医用応用の節では,循環系における血液流れに関するテーマの一つである脳動脈瘤に関する研究動向について紹介されている.

〔酒井 康彦 名古屋大学〕

 機械工学年鑑「流体工学」(2017年版)は,流体工学の分野において2016年1月から12月までの1年間に発行・出版された論文,解説,さらに技術の発展や動向を解説したものです.

機械工学年鑑「流体工学」2017年版(PDF)

更新日:2018.1.11