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流れ 2003年8月号 目次

― 特集:混相流 ―

  1. 微粉粒子を含む固気二相流れとその応用 -微粉粒子の超音速ジェット粉砕と気流分級-
    社河内敏彦(三重大学),森本洋史(日本ニューマチック工業) 共著
  2. 固気二相自由乱流の渦法シミュレーション
    内山知実(名古屋大学)
  3. 気液二相流に関する話題
    片岡勲(大阪大学)
  4. マイクロバブルによる乱流変調(粒子画像複合計測による二相乱流微細構造の抽出)
    北川石英(海技研),菱田公一(慶應大学)共著
  5. 気液二相流研究と沸騰水型原子炉の機器開発
    奈良林直(東芝)
  6. ニュースレター8月号編集後記
    担当:前田太佳夫(三重大学),高橋陽一(富士電機),川口寿裕(大阪大学)

 

気液二相流研究と沸騰水型原子炉の機器開発


(株)東芝
電力・産業システム技術開発センター
奈良林 直

1.はじめに
 沸騰水型原子炉は炉心で水を沸騰させ,蒸気タービンを回して発電する.新型沸騰水型原子炉(ABWR)は1356MWの定格電気出力が得られる.炉心では冷却材である水が沸騰し,気液二相流となるため,当社では,二相流伝熱や流動解析技術を基にABWRおよび次世代の原子炉に用いる炉心・機器の研究開発を行っている.これらの機器開発は社内研究に加え,電力会社とメーカの共同研究として実施するものと,最近は大学も加わった産学共同研究が多くなっている.図1にその概要を示すが,ABWRや次世代BWR向けに開発している低圧損セパレータ(気液分離器,[1]),次世代炉として開発している超臨界圧炉や低減速スペクトル炉(超密炉心でボイド率を上げ,中性子の減速を低くしたもの,[2]),蒸気インジェクタ(SI)などの研究([3])がある.以下,炉内機器である低圧損セパレータと蒸気インジェクタを用いた簡素化給水加熱系を代表例として紹介する.


       図1 気液二相流研究と沸騰水型原子炉の炉心・機器開発

2.低圧損セパレータの開発
 炉心で沸騰により発生した二相流を気液分離するための機器としてセパレータが用いられており,その低圧損化を推進している.この研究開発は,東京電力はじめBWRを採用している電力各社と東芝・日立の共同研究として実施されており,第11回原子炉工学国際会議ICONE-11([1])や機械学会年次大会で発表している([4][5])ので詳細は譲るが,高温・高圧の実機相当の条件下で実施した縮尺モデル試験結果を基に解析手法を検証した気液二相流解析コードを用いてセパレータの下部に設置されたスワラー(静止型の旋回羽根)の形状を改良し,スワラーの圧力損失が半減し,セパレータ全体で圧力損失が約30%低減する見通しが得られている.

図2 セパレータの概略構造  図3 スワラー部の二相流解析結果
(旋回速度成分)
図4 セパレータの二相流解析結果
(軸方向圧力分布)

                  
3.蒸気インジェクタを用いた簡素化燃料の高性能化
蒸気インジェクタは水噴流の周りに高速の蒸気が凝縮し,水噴流を加速してポンプ作用を発生したり,極めてコンパクトな直接接触熱交換器として機能する([3]).この蒸気インジェクタは東京電力との共同研究の結果,(財)エネルギー総合工学研究所の「革新的実用原子力技術開発公募事業」の採択テーマとなり,現在,東京電力を統括代表として,東工大,工学院大,阪大,東大,筑波大,茨城大と東芝が連携して,技術開発が推進されている([6][7]).図5は簡素化給水加熱システムに用いる多段蒸気インジェクタとジェット脱気器の概略構成図であり,現在の給水加熱系の物量を約1/3に削減し,併せてタービン建屋の高さを低減することを目的としたものである.図6に二相流解析結果(分離二相流モデル)を示す.第1段のノズル形状を改良することにより,加熱性能が向上している.東工大 矢部教授も連携メンバーであり,気液の自由界面の取り扱いが容易なCIP法も今後のノズル形状の改良に活躍の予定である.

図5 簡素化給水加熱システム用多段蒸気インジェクタの構成図

      (a) 流動解析メッシュ作成用3次元CADモデル

      (b) 流動解析結果の代表例(温度分布,第1段~第3段)

(c) 流動解析結果の代表例(ノズル形状のパラメータ検討,第1段の拡大図)

図6 簡素化給水加熱器用蒸気インジェクタの流動解析結果の代表例

4.おわりに
次世代炉機器や高性能燃料の開発のため,今後も産学共同研究による二相流解析コードの精度向上や二相流計測や試験技術の高度化を推進していく所存である.

参考文献
[1] Hiroshi Ikeda et. al., "Improvement of BWR Steam Separator with Three-dimensional Gas-liquid Two-Phase Flow Simulation Method" ICONE11-36486 (2003).
[2]師岡ほか,37回伝熱シンポジウム,E132(2000).
[3] Narabayashi,T., et.al., Nuclear Engineering Design, 200 (2000), pp.261-271.
[4] 池田 浩(東芝),清水武司,奈良林 直,西田浩ニ(日立),福田俊彦(東電),坂下彰浩,水谷 淳 「高性能セパレータの開発(1)3次元2相流解析手法による低圧損化スワラー構造設計」,日本機械学会年次大会,2104(2003) .
[5] 近藤隆久(東芝),福田俊彦(東電),坂下彰浩,水谷 淳,奈良林 直(東芝),師岡慎一,西田浩ニ(日立)「高性能セパレ-タの開発 (2)改良型低圧損セパレ-タの性能確認試験」,日本機械学会年次大会, 2105(2003).
[6] Michitsugu Mori, Shuichi Ohmori, Tadashi Narabayashi, "Development of Simplified Steam Injector Feedwater Heater System - Large Scale Model Tests and Design Improvement by CFD -",ICONE11-36488 (2003).
[7] 大森修一(東電),奈良林 直(東芝),森 治嗣(東電) 「高性能蒸気インジェクタによる革新的簡素化原子力発電プラントの技術開発」,日本機械学会年次大会, 2101 (2003).

更新日:2003.9.3