部門賞

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第84期(2006年度)流体工学部門 部門賞

社河内 敏彦 (三重大学)
辻本 良信 (大阪大学)
蔦原 道久 (神戸大学)
南部 健一 (東北大学)
西 道弘  (九州工業大学)
西岡 通男 (元:大阪府立大学)

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部門賞


社河内 敏彦 (三重大学)

受賞理由:

 長年にわたり混相流を含む各種噴流,後流およびはく離流れ現象,特に非定常流動現象の実験的,理論的解明に取り組み,顕著な業績を上げた.最近では,「噴流現象の基礎と先端的応用に関する研究分科会」の主査を務め,その総括として 2005 年 10 月に開催された国際会議「 International Conference on Jets, Wakes and Separated Flows 」の組織委員長を務められるなど,流体工学の発展に多大な貢献をした.

受賞のコメント:

 この度,日本機械学会流体工学部門賞を受賞させていただくことになり大変光栄なことと存じます.推薦していただきましたご関係の各位に深く感謝申し上げます.

 私の修士及び博士論文の研究テーマは,付着噴流の変動特性やエッジトーン発振噴流の発振メカニズムに関することでした.爾来,混相流を含む各種の噴流現象,後流及びはく離流れについて研究を続けて参りました.この間,恩師並びにご関係の先生方,皆様方には多くのご教示とご支援,ご協力を賜りました.ここに,厚く御礼申し上げます.

 ところで,噴流現象はそれが自由及び壁面乱流せん断層(境界層)や大規模渦構造など流体力学の本質的な事象を有するため学問的に興味深く重要であるばかりでなく,例えば,消防用ノズルからの水噴流やジェットエンジンからの高速高温気体噴流などとして身近に多くの例を,また,産業分野では洗浄用ノズルからの高速水噴流,微粉粒子を含むマイクロブラスト加工用固気二相衝突噴流や燃焼バーナからの火炎噴流などとして更に多種多様な多くの応用・使用例を見ることができます.これらのことから,噴流現象は従来,機械工学の分野だけでなく航空宇宙工学,化学工学,土木工学,材料工学などの広範なそれぞれの学問及び産業分野で,また流体力学・工学の中でも種々の領域でそれぞれに研究されてきましたが,噴流現象の多種多様な流動状態や多岐に亘る応用・使用状況を考えますと,私はこれを“噴流工学”という括りでの学問体系や応用分野として纏めることは出来ないものかと大それた思いを持って研究を続けて参りました.

 また,日本機械学会年会講演会,流体工学部門講演会などでの噴流現象についてのOSや 2002 年 8 月から 3 年間に亘っての流体工学部門の研究分科会“噴流現象の基礎と先端的応用に関する研究分科会”及び, 2005 年 10 月の噴流,後流及びはく離流れに関する国際会議“ International Conference on Jets , Wakes and Separated Flows , ICJWS-2005 ”( at Toba Hotel International )などの開催により各種の噴流現象を研究されている国内外の多くの方々と楽しく切磋琢磨する機会を得ました.

この受賞を励みに,今後もこれらの研究に一層の努力を傾ける所存ですので,引続きご教示の程をお願い申し上げます.

 また,現在,深刻な問題となっています種々の環境・エネルギ問題を解決するには流体力学・工学の手法が必要不可欠であります.熱・物質移動(含む化学反応)現象をも取り込みながら流体力学・工学が大きく発展することを強く願っています.

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辻本 良信 (大阪大学)

受賞理由:

 キャビテーションに関する理論解析において常に先導的な役割を果たし,インデューサーに生じる不安定キャビテーションの実験的研究で国産ロケットエンジンの進展にも多大の貢献をした.その成果は世界的に知られ,キャビテーションに関する第 5 回国際会議( CAV2003 )の議長を務め,この分野の進展に尽力した.

受賞のコメント:

 この度は流体工学部門の栄えある部門賞を受賞させていただくことになり,ありがとうございました.ご推薦いただいた方々と審査委員の方々に厚くお礼申しあげます.

 ここ数年来ポンプ,キャビテーションという古典的な分野に携わっており,この分野にも光を当てていただいたことを心強く思っています.古い分野ですが十分理解できていない面白い現象も数多く残されており,最新の EFD,CFD がその真価を発揮できる格好の分野だと思いますので,多くの若い人にチャレンジしていただけることを願っています.最後に,このおもしろい分野に導いてくださった東北大学上條謙二郎先生を始め,御世話になっている関係各位に厚くお礼申しあげます.

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蔦原 道久 (神戸大学)

受賞理由:

 流れの新しいシミュレーション法である格子ボルツマン法を発展させ,適用範囲を拡大するとともに安定性と精度を高めることによって,流れの非定常,非線形現象の解析を精力的に行った.特に,回転流・成層流を解析するための新たな方法の提案,音波や混相流に対する展開は特筆される成果である.また,同氏はこの方法の普及においても顕著な貢献をした.

受賞のコメント:

 このたびは機械学会流体工学部門賞をいただくこととなり,まことに光栄なこととありがたく存じます.推薦いただいた方々ならびに関係各位に心よりお礼申し上げます.

受賞の対象となりました格子ボルツマン法ですが,私はこの手法を10数年前に知りおもしろい方法であると思いましたが,かなり戸惑いを感じておりました.

 いわゆる普通の流体力学方程式である,オイラー方程式あるいはナヴィエ・ストークス方程式とは違ったアプローチに,これは流体の話ではないのではないかという戸惑いです.

 これも研究を進めるうちに,むしろ現実の流体の物理に近いモデルであり,この方法を調べることにより流体のいろいろな性質が理解できるのではないかと思うようになりました.

 しかしながらこの手法は,数値流体力学の手法としてはまだまだ多くの欠点も持っています.現在も活発にモデル自体の改良も加えられており,適用の範囲が広がりつつあります.私も共同研究者の協力を得て,このモデルの改良に何らかの貢献もできたのかと思っております.この方法の大きな特徴は,場の変数である分布関数を扱うのですが,粒子法としての性質も持ち,粒子に対して直接にアクセスすることも可能で,非常に鋭い界面をも扱うことが可能となります.また先ほどのナヴィエ・ストークス方程式が適用できない領域においても,十分注意して適用することにより,シミュレーションが可能となる場合も多く,非常に大きな将来性を持つ手法であることは間違いありません.

 元来,流体現象はさまざまな要素が重なり合った複雑な現象です.それをある現象に対して重要な要素のみ考慮し,他の要素は切り捨てるというのがモデル構築には必要ですが,切り捨てた要素を復活させるとなると非常に大きな困難が生じます.格子ボルツマン法はそういった要請にも簡単に答えてくれます.

 私も今回の受賞を励みとして,この魅力ある手法を流体現象のさまざまな分野に応用するべく改良を進めていきたいと考えています.

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南部 健一 (東北大学)

受賞理由:

 長年にわたり希薄気体やプラズマの研究に取り組み,ボルツマン方程式およびランダウ・フォッカー・プランク方程式の厳密解法を確立し,さらには粒子モデルによる半導体プロセスプラズマの解析ソフトを開発するなど,流体工学の発展に多大な貢献をした.

受賞のコメント:

 東北の地は花と温泉に恵まれている.2001年に,実行委員長として流体工学部門講演会の地を遠刈田温泉に選んだのも,参加者に東北の温泉に身を沈めて日頃の多忙感をひと時忘れて欲しいと考えたからである.ここでは東北の花に触れたい.

 東北には遊休の土地と心のゆとりがまだ残っている.市町村が広大な花園を作り,人々を楽しませている.私にとって,春は,遠刈田の山全体を白く染める梅林の散策から始まる.次は,白石川堤防のひと目千本桜である.枝もたわわな満開の花が風に揺れると,どの顔にも笑顔がこぼれる.一方,散る桜は,3年前に脳を患った私に命の大切さ,ありがたさを自覚させる.

 山形県長井市のつつじ園はすばらしい.花はすべて白である.満開の園内はさながら初雪の降った朝である.この世でもっとも美しい色は,輝く白であろう.村山市のバラ園も毎年訪ねる.山あいの広大なスペースがバラで埋め尽くされる.初夏の日差しは強い.私は額の汗を拭いながら花にすり寄り,花びらの回廊からほのかに漂って来る香りを楽しむ.そして,自然の造形の妙には,人間のいかなる発明も遠く及ばないことを思い知る.

 今の季節は,小野田町の薬来山の麓にコスモスが咲き乱れている.花はどこまでも続いている.風に揺れるさまは頼りなげに見えるが,じつは力強い花である.風に倒されても,茎をねじ曲げて太陽に向う.私は薄ピンクや白を引き立てる濃いピンクの花が好きだ.コスモス園の周りは丈の高いすすきがとりまいている.銀の穂が美しい.私は草の上に腰を下ろし空を見上げて,この文章をこの先どう続けたらよいのか思いめぐらす.

 博士研究では来る日も来る日も実験に明け暮れた.しかしその後の私は,理論研究一筋であった.この遠因は,博士課程修了後すぐ講師として独立したが,学生も実験室ももらえず研究費も少なかったことによる.理論研究ではなにもかも忘れて没頭した.あるとき,道で顔見知りの人に出会い会釈したが,しばらく家内だと気付かなかった.また,あるとき交差点を渡ったが,信号の色は眼中に無かった.危なかった.

 研究が行き詰まったときは,自然の中に身を置いた.季節に応じ,白木蓮(東北大),梅(遠刈田),桜(白石川),アカシヤ(深沼),白つつじ(長井),バラ(村山),はす(伊豆沼),ダリア(川西),コスモス(薬来山),すすき(面白山)を眺めて,風に吹かれるのもよい.唐桑半島の断崖に立ち,太平洋を眺めるのもよい.北上川の広大な葦原を散策するのもよい.

 これまでの40年間,粘性流体(境界層論),高温気体,希薄気体,プロセスプラズマを研究して来た.240編あまりの論文の中で,研究の喜びを身にしみて感じたのは,4つしかない.第1は,博士研究で ASME の Moody 賞も受賞したが,これは指導教官の業績だと思っている.以下の業績に対して部門賞をくれると言う.第2は,1980年(37歳)の作品( J. Phys. Soc. Jpn )である.これが世に出たとき「南部がボルツマン方程式の厳密解法を世界で最初に発見した」と海外から高い評価を得,イタリアの国際会議から基調講演を依頼された.この論文の引用数は私の論文のなかでも飛び抜けて多い.第3は,ドイツ人留学生リーヒェルマンと行なった Phys. Fluids A の論文である.二重円筒間のテイラー渦を分子運動のシミュレーションにより実現したもので,レフリーの激賞に始まり,内外にこの種の研究が波及した.誰かがこの研究をさらに発展させ,乱流の分子構造を明らかにして欲しい.

 第4の研究の動機は,近年の半導体産業の要望に応えることにあった.すなわち電子デバイスの微細化とともに,半導体製造用プラズマはますます高密度になって来ており,このため荷電粒子間のクーロン散乱が電子エネルギー分布,ひいてはエッチングに重大な影響を与えている.私の研究はプラズマ中での荷電粒子の多体散乱の法則を発見したもので,これにより60年間解けなかった Landau-Fokker-Planck 方程式の解法が確立された.すなわち高密度プラズマの解析が可能になった.成果は, Phys. Rev. E に3編の論文として掲載した.多体散乱の美しい法則を見つけたとき(54歳),ボルツマン方程式の解法を発見したときのあの17年前の胸の高鳴りがよみがえった.

 この3月に定年となったが,無一物のヴァーチャルな研究室を立ち上げ,勉強と研究を続けている.この度の賞は,そんな私を激励する粋な計らいか.

 熊本大学での年次大会で「私の歩んだ流体工学40年」と題して基調講演をした.この講演は,定年を機に丸善から出版した拙著「果てなき海へ漕ぎいでて」の要約である.研究者として人間としての苦悩,歓喜,挫折,夢をありのままに書いてみた.関心のある方は sd-aer@maruzen.co.jp (石森)まで.

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部門賞


西 道弘  (九州工業大学)

受賞理由:

 長年にわたり非定常・不安定流動問題に取り組み,巧みな実験技術とシンプルな理論モデルの構築に顕著な功績があった.特に,水車吸出し管水圧脈動の発生機構の解明は,その低減技術開発への指針を与えると共に,類似する流動現象解明への先導的役割を果たし,流体工学の発展に多大な貢献をした.

受賞のコメント:

この度,流体工学部門賞受賞の通知をいただきました.誠に光栄に存じます.この場をお借りして関係各位に厚く御礼申し上げます.

受賞対象の吸出し管内水圧脈動とらせん渦心の研究は,恩師の妹尾泰利先生(九州大学),松永成徳先生(九州工業大学),久保田喬先生(当時,富士電機(株))方の御協力をいただき, 1979 年に始めることが出来ました.それ以来,何代にもわたる教え子たちは卒業研究や学位論文として熱心に取り組んでくれました.その集積が対象になったと意識し,共に喜びたいと思います.研究が幸運にも一定の進展を果したのは,開始当時は該当分野の門外漢であったために自由な発想がとれたからと実感していますので,近年,学生達には「常識に囚われない考え方を一旦とることも必要だよ」と説明するようにしています.

勝手かもしれませんが,水車分野の研究として,関連技術者・研究者の方々と一緒になっての受賞であるとも捉えたい気持です.この機会に流体工学分野の皆様に水車技術においても解決が必要な課題は数多く残っていることを承知していただき,関連研究に参画していただければ幸いです.水車は,地球温暖化対策のひとつのキーとも見なせるのですから.

本年 10 月に横浜開催の第 23 回IAHRシンポジウムにおける講演約 140 件の約7分の1が吸出し管に関する論文です.その不安定現象の真の解決には未だ至っていないためであろうと改めて感じております.それ故,この度の受賞を milestone と位置づけ,これからも機会をとらえ関連研究に従事し,特に若い世代に渦ロープの不可思議さを追究する楽しさを伝えることが出来ればと思いを馳せております.今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます.

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西岡 通男 (元:大阪府立大学)

受賞理由:

境界層の受容性や壁乱流への遷移機構に関する最先端の実験を行い,遷移の研究を先導する成果を得るとともに,柔毛を用いて渦音を抑制する低騒音化技術を開拓し,縦渦による超音速混合・燃焼促進制御の研究により次世代ジェットエンジン技術の開発に努め,流体工学における乱流研究の進展に大きく貢献した.

受賞のコメント:

このたびは流体工学部門の部門賞をいただき,誠に光栄に存じます.乱流研究の成果を評価して頂いたことは大変うれしく,研究仲間(同僚・卒業修了生の諸氏)と喜びを分かち合いたいと思います.ご推薦いただいた関係各位に心から御礼を申し上げます.

私は流れの奥深さに魅了されて実験を続けてきました.最初( 1964 年)に取り組んだ垂直衝撃波と乱流境界層の干渉の問題では,マッハ数 2.5 の垂直衝撃波を所望位置にほぼ静止させ,剥離・再付着流を計測しました.干渉場の垂直衝撃波を静止させるという無謀ともいえる企ては困難を極め,成功の鍵となったのは2年に及ぶ数々の失敗から得た知識でした.つまり,シナリオを立てて実験し,その結果からシナリオを修正するというサイクルを何度も繰り返しました.これは実験の常道ですが,初体験でこのスタイルにはまってしまい,その後に取り組んだ渦の多様な挙動が絡む流れの安定性や遷移の研究では,その妙味が大きな魅力となり,さらに,遷移後期段階の周期的な流れ(の平均場)が対数速度分布に近づくという壁乱流機構の本質にかかわる現象が熱線観測できた頃( 1980 年)には,力強い推進力になっていました.そこで,流れの不安定性・受容性に着目して渦の生成・発達・干渉・崩壊過程を操作する手法による乱流の制御に取り組み,「不安定性の操作」,「音波などの外乱による渦生成」,「壁面条件の工夫による渦度操作」などの要素的操作を組み合わせるアプローチを翼の失速制御・空力騒音の低減・超音速混合燃焼促進制御などに適用し,それぞれの制御のポイントを明らかにするとともに渦制御の威力を確かめました.

「基礎」と「応用」の連携を密にして知識を拓き,技術を発展させている流体工学の分野は夢や興味が尽きることはありません.今後とも,乱流の研究を通して,このような流体工学の進展に貢献できればと願っています.ご指導や励ましを頂いた皆様に深く感謝し,さらなるご支援をお願い申し上げます.

更新日:2006.10.31