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第99期 (2021年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)

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一般表彰(フロンティア表彰)


辻 拓也(大阪大学)

受賞理由

 離散要素法による大規模数値解析や実験計測を駆使することにより,粉粒体流や濃厚粒子-流体混相流の詳細挙動を明らかにし,当該分野において先駆的,先導的な役割を果たしてきた.

受賞のコメント

 この度は、日本機械学会流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り、大変光栄に存じます。推薦者をはじめ、関係者の皆様に深く御礼を申し上げます。これまで一貫して、受賞対象となりました固体粒子の集団である粉粒体の流れや、粉粒体と流体からなる濃厚混相系を研究テーマとしてきました。粉の問題は、日常生活においてごく身近に存在しながら、その振る舞いは多様かつ複雑であり、基礎物理としても未解決な問題が多数存在します。実用面においても、効率云々の前に依然その多くが“流れる”か、“流れない”かが議論される段階にあります。粉粒体が関係する流れの問題は、流体分野において残されたフロンティアの一つであることに疑いはなく、また広範な産業分野と関係していることから、今後の気候危機への対策を考える上においてもその解明が急務であると思います。これまでに培ってきた大規模離散粒子シミュレーションや実験計測技術を駆使することにより,今後もその真実に迫ると共に、実際に役立つ研究を行っていきたいと考えております。最後になりましたが、本受賞の対象となった研究の成果は私一人で成し得たものではありません。これまで共に研究を進めて頂きました国内外の先生方、学生諸子に厚く御礼を申し上げます。

一般表彰(フロンティア表彰)


野々村 拓(東北大学)

受賞理由

 プラズマアクチュエータ(PA)による翼周り剥離制御およびPA誘起流の高解像度計測に成功した他,流体計測に向けデータ駆動型スパースセンシング技術を開発する等,流体制御分野で先駆的かつ主導的な役割を果たした.

受賞のコメント

 この度は流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り、大変光栄に存じます。ご推薦頂いた先生方および専攻関係者の皆様に感謝申し上げます。
 受賞対象の研究は、プラズマアクチュエータを用いた流体制御に係る数値シミュレーションおよび風洞試験、さらにはモデル化に関連する一連の研究となります。大規模数値シミュレーションおよび風洞試験による剥離流れ制御の現象理解に始まり、シングルピクセル解像度の粒子画像流速測定法を用いた世界最高の解像度でのプラズマアクチュエータの誘起流の測定、プラズマ体積力モデルの体積力の積分量を用いた無次元化により多くの結果が整理できることなどを示してきました。最後の成果は、体積力モデルの細かな分布はほとんど誘起流れのプロファイルに影響を与えないため、シンプルな体積力分布で十分なモデル化ができることを示しており、工学的に価値の高い成果となったと考えています。これらの多くの研究の方向性は、幹事を務めさせて頂いております流体工学部門のプラズマアクチュエータ研究会での議論を通じて着想しており、非常に活発に議論をさせていただいたプラズマアクチュエータ研究会主査、幹事および委員の皆様に深く感謝を申し上げたいと存じます。これらのプラズマアクチュエータの研究成果に加え、最近はスパースセンサ最適化など先進的な計測を精力的に行っており、将来的にこれらの技術を組み合わせてフィードバック制御を実現したいと考えています。本受賞を励みに今後も研究に邁進して参ります。
 最後に受賞につながる研究成果は共に研究に取り組んできた共同研究者や同僚、学生諸氏、プラズマアクチュエータ研究会の皆様のご協力により達成できたものと考えており、皆様に深く感謝申し上げます。

一般表彰(フロンティア表彰)


花崎 逸雄(東京農工大学)

受賞理由

 流れ場に拡散が匹敵する液中の微視的な挙動を先駆的に追究してきた.特に,ランダムなブラウン運動による特有の現象を予見し,実験的な本質を新たな相似則と共に解明した.有力国際誌に多く掲載され,被引用数も多い.

受賞のコメント

 このたびは,日本機械学会流体工学部門フロンティア表彰を戴き,まことに光栄に存じます.まずは,御推薦下さいました先生方ならびに選考関係の皆さまに心より御礼申し上げます.
 一般に,微視的に流体を考える時,平衡状態でも熱揺らぎ等によって構成要素の粒子が相対配置を変え易いことが典型的な特徴です.その結果,完全に平均化されていない揺らぎの効果が支配的になることに気が付きます.ただし,直径数nm以下のカーボンナノチューブ(CNT)内の水の挙動は,常温でも水分子間の水素結合の秩序も反映します.巨視的な時空間スケールで想定される滑らかで変幻自在な流体ではありません.それゆえ,CNT内の水の流れは,壁面の平滑さも寄与してPoiseuille流よりもプラグフローに近い流動現象となります(e.g., J. Chem. Phys., 124, 144708(2006)).
 さて,もう少し大きなスケールに目を向けてみましょう.ナノ流路に基づく検査デバイスでは,まずマイクロ流路に検体を含む液体が流入して,それと直結したナノ流路に輸送されます.Reynolds数もStokes数も微小であるこの系で,各流路内でのナノ粒子濃度に無視できない違いが生じることが実験的に確認されました.これは,ナノ流路の高さに対して無視できないサイズのナノ粒子が流入する際に,球体であろうと熱揺らぎに起因するBrown運動の効果により周囲流体とは異なる流動様式となるからです.そして,ナノ流路を通過する微粒子の流量をPéclet数で整理できる相似則があり,最大輸送効率を取るPéclet数が存在します(cf. Phys. Rev. E, 96, 023109(2017)).
 さらに大きなスケールでは,微生物がランダムさを伴う動きを示したりします.近年ではアクティブマターと呼ばれることも多いですが,Brown運動との違いは能動性にあります.ランダムな中に能動性を客観的に見出すこともまた,それを対象とする分析機器などの機能に直結します.各論的には色々な方法が考えられますが,普遍的な観点からは中心極限定理を包含する統計数理の大偏差原理を活用する識別方法が考えられます(e.g., J. Phys.: Condens. Matter, 25, 465103(2013)).対象それ自体が示すランダムさは外乱ではなく,その本質を捉えることは工学的な機能の源泉にもなります.
 これからも,機械工学の真価を科学と技術のフロンティア開拓に活かす挑戦を続けていきたいと思います.このような挑戦に御協力下さってきた多様な専門分野の皆様にも,この場を借りて心より御礼申し上げます.

更新日:2021.12.9