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第100期 (2022年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)

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一般表彰(フロンティア表彰)


松田 佑(早稲田大学)

受賞理由

 感圧・感温塗料計測法や単一分子計測法などの最先端計測技術を熱流体計測へ適用するとともに機械学習やスパースモデリングを活用することで計測の高度化を実現し,流体計測技術の分野において先駆的な業績をあげた.

受賞のコメント

 このたびは,日本機械学会流体工学部門フロンティア表彰を戴き,大変光栄に存じます.まずは,ご推薦いただきました先生ならびにご選考いただきました皆様に心より御礼申し上げます.

 大学院生の頃に,蛍光・りん光分子の発する光のきれいさ,そしてそれを巧みに利用することで熱流動場を可視化する技術に魅かれて名古屋大学の新美智秀教授の研究室の門をたたいて以来,蛍光・りん光分子を用いた熱流体現象の可視化計測の研究を続けてきました.当初は感圧塗料(Pressure-Sensitive Paint; PSP)計測法を用いてマイクロ気体流の圧力分布計測を実施しておりましたが,磁気ディスク内の流れや風洞試験と様々なスケールでの計測を実施するようになり,またPSPを用いた非定常溶存酸素濃度計測や感温塗料(Temperature-Sensitive Paint; TSP)計測法による強制対流沸騰場の温度分布計測など様々な量の計測も行うようになりました.PSPやTSPなどの蛍光・りん光分子を用いる計測手法は,カメラ撮影時のノイズとの戦いでもあり,高SN比計測を実現するためにいくつかの手法を提案して参りました.この数年は,スパースモデリングに着目し,時系列画像から算出される固有値直交分解から少数のモードを上手く選ぶことでノイズを低減しつつ流れ構造を維持できるような画像再構成法について研究しています.今回はこれまでの取り組みを総合的にご評価いただいたものと大変うれしく思っております.

 今回の受賞を励みとし,学術・産業を発展させる一助になるよう,今後もより一層の研究を重ねて参りたいと思います.また最後になりましたが,上述の研究は多数の方々のご協力により達成されたものです.研究を遂行するにあたって多大なご助言,ご貢献をいただきました共同研究者,研究室のメンバーやスタッフの方々に厚くお礼申し上げます.

一般表彰(フロンティア表彰)


焼野 藍子(東北大学)

受賞理由

 流体機械の低抵抗化のため,遷移,剥離,そして乱流に作用する流体制御の研究を行い,特にエネルギー過渡増幅など流体安定性に基づく秩序渦に着目した機構解明や,制御の高性能化に対し優れた成果をあげた.

受賞のコメント

 この度は,名誉ある賞を贈賞いただきまして誠にありがとうございました.ご推薦ならびに選考いただきました先生方に,深く御礼申し上げます.これを励みに,今後より一層精進して参りたいと存じます.

 私はこれまで複数の機関に所属し,様々な研究プロジェクトに従事しつつ,一貫して流体制御による流体機械の低抵抗化に関する研究に取り組んでまいりました.私は2012年3月まで東京大学の博士課程学生として笠木伸英先生と長谷川洋介先生,Tamer Zaki先生のご指導のもとに,乱流摩擦抵抗の低減に関する研究をおこなってきました.そこでは,特に非直交基底によるエネルギーの過渡増幅に着目した研究に取り組ませていただき,これにより従来未解明であった流体現象が説明される例がいくつか出てきています.その後,浅井雅人先生,藤井孝藏先生,大西領先生がリードされる研究プロジェクトで,それぞれポスドクとして雇用していただきました.中でも藤井先生とは当時「京」スーパーコンピュータの戦略プログラムとして,流れの剥離抑制の制御に関する研究を行わせていただきました.2017年10月に東北大学の大林茂先生の研究室に助教として着任してからは,層流化に関する研究にも着手してきております.機械(非圧縮性流体),航空(圧縮性流体),環境(気象)と分野が異なると,それぞれ常識も異なるものですが,思考を柔軟にすることの大切さを学びました.特に大林先生からは,研究を実際に持続可能な社会のために役立てることの重要性を教えていただき,それはいまの私の研究活動において,最も重要と考える行動指針の一つになりました.

 本受賞は,女性では初めてであり,また最年少での受賞と伺いました.業績ある先生方と同じWebページに掲載していただくのは大変恐れ多いことです.当該分野において,まだまだ男性が多い中での「女性」という個性のためであったか,歴史ある研究分野で何か新しい成果を得たいがためであったか,"女性らしさ"を求める少し前の社会常識や,研究においては既存の着眼点にとらわれすぎないことを心がけてきました.そして私は何よりも,流体現象そのものへの学術的探求心を原動力として,フロンティアの道半ばではありますが,ここまでくることができたと思います.

 私は一昨年に出産し,現在始めての子育てを経験している真っ最中です.子育ては決して片手間にはできないものですが,夫をはじめ周りの方々の様々な援助を受けることで,研究も続けることができており,ここに改めて感謝申し上げます.出産育児介護など,一般には家庭での負担割合が大きい女性が,職務上男性と同じ土俵で評価を受けることが多い現状ではありますが,女性は,工学者としてもその個性を生かされるところがあると信じております.これからのより若い方々が,家庭をなすことに躊躇せず,生きがいを持って仕事にも取り組める社会を成していけますよう,私もその一員として挑戦を続けてまいる所存です.

更新日:2022.12.21