部門賞

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第101期 (2023年度)流体工学部門 部門賞

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部門賞


森西 洋平(名古屋工業大学)

受賞理由

 格子乱流の生成と乱流拡散過程の研究,渦構造に及ぼす回転効果の研究.および高次精度差分スキームの研究を行い,数値流体力学の研究分野において顕著な業績を挙げた.

受賞のコメント

 この度は,日本機械学会 流体工学部門 部門賞,を賜り大変光栄に存じます.まず,ご推薦およびご選考を頂きましたご関係の皆様に御礼申し上げます.また,これまでにご指導頂いた先生方ならびに大学での研究・教育活動にご支援を頂いた皆様,さらに一緒に学んできた研究室のスタッフ,卒業生,および在学生諸君にも感謝申し上げます.

 受賞理由の1つに挙げて頂いた高次精度差分スキームの研究は,東京大学の小林敏雄先生に師事して乱流のLES(Large Eddy Simulation)に関する研究テーマを頂いた事に始まります.小林先生には自由な研究環境と十分な計算資源を与えて頂き,LESの壁面境界条件,LESのSGS(Subgrid Scale)モデル,およびバックステップ乱流へのLESの応用をまとめて博士論文としました.LESに適したエネルギー保存形の高次精度差分スキームの構築については学生時代に決定打を出すには至りませんでしたが,名古屋工業大学に職を得てから,文部省在外研究員制度を利用して乱流研究のメッカであるStanford大/NASA AmesのCTR(Center for Turbulence Research)に留学し,Parviz Moin先生の研究グループにてこの問題にじっくり取り組む機会を得ました.Moin先生からは,CTRでも長年取り組んできたがいまだ世界で解決に至っていない問題なので,覚悟して集中して取り組む様にとのご指導を頂きました.そこでまず,差分や補間等の離散オペレータを定義し,それらの間に成立する関係式を整理した後,阪大の梶島先生のものも含め既存の2次および4次精度移流項差分スキームの離散的保存特性をそれら離散オペレータを用いて徹底的に調べました.この期間は,CTRの地下1階のオフィスにて,まさに朝から晩まで,ひたすらノートに離散式展開を行う日々が続きました.そのような試行を繰り返すうち,積の微分の展開公式であるライプニッツ則をパーマネント積で離散的に表現する方法に辿り着き,ついに4次精度,さらに同じルールでいくらでも高次精度のエネルギー保存形差分スキームが構成できる事を明らかにしました.帰国後にその成果をまとめ,JCP(Journal of Computational Physics)誌に掲載された論文は自身の代表論文の1つとなっております.その後,エネルギー保存形差分スキームについては,円筒座標系,圧縮性流れ場,移動変形格子,等へも拡張しております.

 受賞理由に挙げて頂いた回転流れ場と乱流構造の研究については名古屋工業大学での上司であった中林功一先生からの薫陶を受けております.中林先生は二球間クエット流,平板間クエット乱流,回転チャネル乱流,準剛体回転成層流,等の回転および隙間内流れについて,より理想的な実験装置を模索して信頼性の高い実験データを取得され,当時の日本では数少ないJFM(Journal of Fluid Mechanics)誌への論文掲載者のお一人でした.これら研究のいくつかのお手伝いを通して流体力学の研究方法や次元解析の重要性等を改めて学ばせて頂きました.その後開始した回転系振動格子乱流の実験は装置固有の二次流れの影響の抑制が世界的な課題でしたが,その後改良を重ね,最近ようやくある程度納得できる結果が得られる様になってきました.また自身の強みを生かすため,研究室で実施している実験の流れ場に特化した数値計算手法の開発とそれらのDNS(Direct Numerical Simulation)やLESも実施し,対象とする流れ現象の深い理解を得る事ができるようになりました.振動格子乱流に対しては圧力ポアソン方程式に領域分割法と影響行列法を用いた直接解法を導入し信頼性の高い流れ場を得ております.また,複素ヘリカル波分解を用いた回転系一様乱流のDNSアルゴリズムの開発により得られた解析結果は一様乱流の英語専門書にも引用掲載される様になりました.

 私の経験が参考になるかどうかは判りませんが,若い研究者の皆様にはぜひ,先達の優れた所は遠慮せず吸収し,計算屋なら実験も,実験屋なら計算も少しは学び,また壁に突き当たったら何か大きな課題が見つかるチャンスと思ってあきらめずに問題点をとことん追求し,素晴らしい成果を挙げて頂きたいと思います.

  最後になりますが,今後の流体工学部門と関係の皆様の益々のご発展を祈念し,部門賞受賞の御礼挨拶とさせて頂きます.

部門賞


髙橋 勉(長岡技術科学大学)

受賞理由

 複雑流体の配向膜形成の研究,分散系流体の薄い液膜の乾燥挙動の研究,およびナノ・レオメトリーの研究を行い,複雑流体のレオロジー研究分野において顕著な業績を挙げた.

受賞のコメント

 この度はたいへん名誉ある流体工学部門賞を賜り,誠にありがとうございます.ご推薦,ご選考に関わられた皆様に厚く御礼申し上げます.ともに歩んで参りました複雑流体研究会の皆様,共同研究者の皆様,そして研究室の学生・卒業生の皆様のご支援によりここまでたどり着くことができました.深く感謝申し上げます.

 私は富田幸雄先生に指導をいただき高分子流体の流動現象から複雑流体の力学に踏み出しました.長岡技術科学大学・白樫正高先生をはじめとする同門の先輩方に支えられて研究を進め,スタンフォード大学・G.G. Fuller先生のご指導でオプティカル・レオメトリーの研究・開発を行い,現在に至るまで複雑流体の流動現象の解明とともに物性測定手法の開発を進めております.海外での研究員生活ではテーマに関連する研究者が国を超えて集まり協力して解明に向かうという状況を何度も体験しました.この体験から,信頼できる仲間の大切さとその方々から頼っていただける独自性の高い知見や技術保有の重要性を強く感じました.帰国後に実施した液晶性色素の配向膜形成の研究では課題提起と試料の提供を三菱化学(当時)が,レオロジー挙動解明を京都大学・渡辺宏先生が,分子モデル計算を山形大学(現在は京都大学)・谷口貴志先生が,そして光学手法による配向状態の評価を私が担当しました.このプロジェクトはチームを組むことで海外をリードする研究が実施可能という大きな自信を与えてくれました.その後,分散系流体の乾燥過程の理論を構築されているケンブリッジ大学・A.F. Routh先生にお声がけいただき薄膜の乾燥過程に関する共同研究を開始いたしました.また,産業界で求められている分散系流体の微視的な構造と力学の関係を解明する手法として小林製薬の皆様と超高感度インデンテーション試験を用いたナノ・レオメトリー手法の開発に取り組んでおります.これまで感知できなかったゲルの局所的な降伏の発生やレオロジーに及ぼすエマルジョン構造の影響などの新たな知見を見いだしました.他の企業の皆様との共同研究おいても同様に実践的な課題の発見とラボ技術の産業展開などを経験させていただいております.

 複雑流体を含むソフトマター科学は物理,化学,数学に加えて医学や生物の専門家も参加する学際的な分野です.この中で流動系のグループは一目を置かれる存在であり,学会等において重要な役割を果たしております.複雑流体研究会における最新情報の共有や切磋琢磨がこのグループのアクティビティを国際レベルに引き上げていると感じております.今後は私がこれまでに諸先輩方からいただきましたご支援を若手の皆様に引き継いでいく努力をしたいと思っております.

 最後になりましたが,流体工学部門の皆様の益々のご発展をお祈り申し上げます.

部門賞


太田 有(早稲田大学)

受賞理由

 ターボ型気体機械の低流量域で発生する旋回失速やサージングなどの非定常空力現象、および空気力学的に発生する音響に関する研究分野において顕著な業績を挙げた.

受賞のコメント

 この度は思いもかけず流体工学部門賞を賜り,ご推薦いただいた皆様および流体工学部門関係者の皆様に厚く御礼を申し上げます.

 日本機械学会と私の関りは,九州大学の生井武文先生が主査をされていた「RC-50大形ターボ性能予測調査研究分科会」で,恩師の大田英輔先生が「遠心型空気機械の騒音と非定常挙動」に関する実験と数値解析研究を分担担当されていた1980年代に遡ります.当時の私は研究室に入ったばかりの学部4年生で,幸運にもこの先,大学院の博士後期課程までずっとこの実験と数値解析を担当させて頂きました.遠心送風機の発生騒音を測定して,その当時は騒音評価の指標となっていた比騒音レベルや比音響パワレベルでは詳細な評価が難しいこと,騒音評価には音源の性格のみならず伝播系の影響が顕著であることなどを調査し,大型計算機を使った送風機ケーシング内部流れ場の非定常計算結果と共に騒音低減化法の提案を行いました.当時の数値計算は総格子点数約一万点,もちろん乱流モデルなどは用いない層流計算でしたが,東京大学の大型計算機を使っても約6時間かかる当時としては目新しい大規模な非定常計算でした.この研究成果で幸いにも日本機械学会奨励賞を頂くことができましたし,研究分科会を通して当時空気機械の分野でご活躍されていた多くの大先生方のご尊顔を拝する機会にも恵まれました.今回の受賞理由にも挙げて頂いた「空気力学的に発生する音響に関する研究」はこの研究分科会の成果が原点であり,将来的に空気機械の非定常現象を主たる専門分野とする大きな契機となりました.

 その後は遠心型空気機械の騒音問題のみならず,軸流型も含めてサージや旋回失速などを含めた非定常現象全般の解明と制御に関わる研究を続けて参りました.近年は空気機械を専門とする大学教員や,大型の実験設備を有する大学が激減しており,流体機械・空気機械の研究室が絶滅するのではないかとの危機感すら抱いております.これからの持続可能社会を支える基幹産業における空気機械の役割や重要性を鑑み,産官学の一層の連携を期待したいと思っておりますし,当該分野で将来活躍してくれる人材育成にも注力したいと考えております.

 最後になりましたが,流体工学部門の益々のご発展をお祈り申し上げ,受賞のご挨拶とさせて頂きます.ありがとうございました.

部門賞


山本 悟(東北大学)

受賞理由

 相変化や気体・液体・超臨界流体の熱流動など様々な物理化学現象を支配する数理モデルを解くマルチフィジックスの数値流体解析の研究分野において顕著な業績を挙げた.

受賞のコメント

この度は日本機械学会流体工学部門より由緒ある賞を賜り、たいへん光栄に存じます。ご推薦いただきました関係各位に心から感謝申し上げます。

 私は東北大学工学部機械工学科を1984年に卒業して、同年に日本機械学会の会員になり、これまで約40年間、数値流体力学(CFD)の研究に携わってきました。当時まだ市民権を得ていたとは言い難いCFDを先駆的に研究していた大宮司久明先生の下で、1989年に博士号を取得して、その後も助手、講師、助教授までお世話になり、2004年に東北大学大学院情報科学研究科に計算数理科学分野を新設して教授に着任してから、今日に至っています。

 大学院生のときに東北大学に導入されたスーパーコンピュータSX-1をきっかけにその後もスパコンはどんどん進化して、それに合わせて私の研究も進化していったように思います。ただ、私が教授に着任した2004年くらいになると、CFDも成熟感が漂い始めているのを実感しました。ナビエ・ストークス方程式を解くだけでは研究が続かないかもしれないと、他研究分野との接点を探しながら、極超音速熱化学非平衡流、電磁プラズマ流、非平衡凝縮流、そして超臨界流体の数理モデルと数値解法の研究開発に挑んできました。これらの研究を総称して、マルチフィジックスCFDと呼んでいます。非平衡凝縮流の応用として、ガスタービンの湿り空気流れや蒸気タービンの湿り蒸気流れを数値計算できる「数値タービン」、気体・液体のみならず、超臨界流体が数値計算できる「超臨界流体シミュレータ」の2つのプラットフォームを研究開発しながら、それらマルチフィジックス熱流動現象を伴う具体的な工学問題の解明に実用してきました。これらの開発には10年以上の歳月を費やしています。短期的な成果が求められる最近の研究環境ではとても開発できなかったと思います。

 2021年度に部門長を拝命して部門を運営する中で、流体工学部門は本学会では最大部門であり、かつ一番の稼ぎ頭として大きな責務を担っていることを知りました。流体工学は機械工学の基盤であるとともに、多くの産業でもその知識や技術が欠かせません。軸足はあくまで流体工学に置きながらも、他分野との融合により、新分野の開拓に果敢にチャレンジしていく流体工学研究者・技術者が増えることを期待しています。

部門賞


高比良 裕之(大阪公立大学)

受賞理由

 気泡力学やキャビテーション,マイクロ,ナノバブルなどの現象解明や数値解析手法,工学・医療への応用を進めるなど混相流の研究分野において顕著な業績を挙げた.

受賞のコメント

 このたびは第100期日本機械学会流体工学部門賞受賞の栄誉を賜り,大変光栄に存じます.ご推薦,ご選考に関わられた関係各位に厚く御礼申し上げますとともに,これまでお世話になりました先生方に深く感謝致します.また,私の研究の多くは京都大学・大阪府立(公立)大学の研究室の学生諸君の協力なしには成り立たなかったものです.改めて,学生諸君に感謝申し上げます.

 本賞の対象となった「気泡力学とキャビテーション」に関する研究は,京都大学の赤松映明先生の研究室にて,藤川重雄先生と一緒に2個の気泡力学に関する研究を始めたことに端を発します.その後,私はN個の気泡の力学理論を体系化することを大きな命題として,研究を進めました.その間,境界要素法を用いた数値解析や気泡振動と非線形力学・カオスとの関連も解析対象となりました.学位と職を得た後,解析ばかりしていた私は,赤松先生に実験も行うよう強く勧められ,マイクロバブルのレーザトラップという新しい課題に取り組み,この研究をもとに,マイクロバブルの医療応用にも携わるようになりました.実験し,それに対応する解析を行うという研究スタンスができたのは,ひとえにこの頃の経験(と苦労)によるものと思っています.大阪府立大学に着任後は,木田輝彦先生のお陰で,これまでの研究を発展させるができました.その後,カリフォルニア大学サンタバーバラ校にて,当時新しい手法として注目されていたLevel Set法をBanerjee先生と一緒に研究できたことは,その後の私の数値解析に係る研究に大きく影響しました.

 流体工学部門では,日本機械学会論文集のエディタとして編修業務に携わったことが良い経験となりました.私が若い頃は,機械工学の研究者は機論に論文を書くのが当たり前の時代でしたが,時代とともに日本語論文の価値が低下してきたのは少々残念です.今後,流体工学の研究はどこに向かうのでしょうか.AIに取って代わられることがない独創的な研究を続けることが,研究者が生き残ることができる唯一の術だと信じ,微力ながら今後も研究・教育に携わっていきたいと考えています.

 最後になりましたが,流体工学部門のますますのご発展をお祈り申し上げます.

更新日:2023.8.8