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荏原の研究開発

株式会社 荏原製作所
技術・研究開発統括部
基盤技術研究部 熱流体研究課
安 炳辰 / Byungjin AN, Ph.D.

※ 図の無断転載・転用の禁止


図:「グループ報『荏原だより」No.58秋号(2018年10月31日発行)より転載  

はじめに

 荏原製作所は,本社機能のコーポレートと,3つのカンパニー(風水力機械カンパニー,環境事業カンパニー,精密・電子事業カンパニー)が各々の事業を統括し製品開発を担っています(図1).当社では,1912年の創業以来,それぞれの時代と会社の状況に合わせて,様々な形態に変化しながら研究開発を行ってきました.本ページでは,荏原製作所の研究所の歴史や現在の研究体制,産学連携・共同研究の取り組みとその研究事例を紹介します.


図1 荏原製作所の主な事業分野(2018年度) ▲図をクリックして拡大

研究体制の変化

 これまでは一つの企業内で基礎的研究から開発まで行い,製品化・販売をするというのが一般的でした.しかし,製品技術の複合化や高度化が進み,技術革新のスピードも上がった今日では,一つの企業で全てをまかなうことが困難になりました.そこで荏原は独立した研究組織である荏原総合研究所を2009年に解散しました(図2).目の前の事業課題に直面している事業部側の期待と,5年先,10年先の事業貢献を目指す研究所側の考えに乖離が生じていたことも解散理由の一つでした.解散後は,研究者が社内の諸部門に異動して各事業の業務を担うようになり,研究が行えなくなったため,新たな研究方式として,「EOI (Ebara Open Innovation)」という外部研究機関との連携の仕組みを2010年に立ち上げました.人や資金などの研究資源を抑え,効率的に研究成果を出せる荏原独自の仕組みです.しかし,社外秘の研究ができない,社内の研究者が育たないなどの問題は引き続き残ったため,2014年にコーポレートの研究組織として「EOL(Ebara Open Laboratory)」を開設し,現在の研究体制に至りました.

 現在は,EOLが荏原の基盤となる技術の研究を行い,その研究成果を各カンパニーの事業部が製品開発に繋げる役割を担っています(図 3).研究には EOL 以外にも,先述した EOI や,新規事業の創出を目指したプロジェクト活動である EIX(Ebara Innovation for ‘X’),最先端の知識・技術に触れて研究者やエンジニアの技術力向上を目指した活動である EHU(Ebara Hi-tech University)といった,荏原独自の研究の仕組みが用いられます.


図2 研究所の歴史(1) ▲図をクリックして拡大

本文の内容はグループ報『荏原だより』No.58秋号(2018年10月31日発行)内の文章を抜粋


図3-1 現在の研究体制(2)  ▲図をクリックして拡大


図3-2 現在の研究体制(3)  ▲図をクリックして拡大

現在の研究体制の特徴

 荏原総合研究所の時代は事業部と研究所の間に距離がありましたが,現在は緊密な協力関係を築けています.その最も大きな要因は,EOL の仕組みにあります.EOL には事業部の製品開発を行うのと同時に,自ら研究テーマを持って EOL で研究を行う兼務研究者がいます(図4).事業部にとって必要な研究テーマを,事業部所属の兼務研究者がコーポレート所属の専任研究者と協力して研究を行うことにより,人と人の繋がりが出来るとともに,お互いに事業や研究の状況が分かるようになり,先述した緊密な協力関係が生まれているのです.

  新規・継続テーマを合わせて毎年80件の研究テーマが選定され,定期的な進捗報告会や研究発表会で事業部の意見を聞きながら研究が行われています.研究テーマによって調査・基礎・応用の各研究ステージに分けられます(図5).今までは新しい体制の有効性を示すために目に見える成果を重視し,製品の競争力に直結する応用研究に力を入れてきましたが,現在は基礎研究に軸足を移しつつあります.研究開発費や人工は総合研究所当時より低い水準にもかかわらず,特許出願数は約4倍,社外発表数は約2倍伸びています(図 6) .


図4 EOLの仕組み(3)  ▲図をクリックして拡大

本文の内容はグループ報『荏原だより』No.58秋号(2018年10月31日発行)内の文章を抜粋


図5 研究ステージ(3) ▲図をクリックして拡大


図6 研究成果の指標(3) ▲図をクリックして拡大

EOLの研究事例

 EOLで取り組んできた研究の中から4つの事例を紹介します.詳細は荏原グループの技術情報誌「エバラ時報」に掲載されています.
エバラ時報: https://www.ebara.co.jp/jihou/index.html

研究事例1「産業用立軸多段ポンプへの形態最適化設計適用に関する研究」

Abstract  [link]
 本研究の目的は,JAXA Dynamic Design Team(JAXA- DDT)によって開発されている形態最適化設計技術を産業用立軸多段ポンプへ適用しその効果を確認することである.形態最適化設計技術の産業応用に当たっては,特にコスト・振動安定性・流体性能のトレードオフ関係が重要となる.形態最適化設計技術を適用した結果,従来のポンプと比較してコスト削減・振動安定性の向上・流体性能の向上が期待できる新しいポンプ形態を得られることが明らかになった.また,本研究で提案・実施した最適化設計プロセスが産業用立軸多段ポンプに適していることも併せて確認できた.

代表図

研究事例2「吸込水槽の乱流渦制御に関する研究の展望」

Abstract  [link] 
 自然界と人工的な流れのほとんどは乱れを含んであり,このような流れを乱流という.乱流がもつ時空間スケールの不規則な渦運動はエネルギー損失と振動,騒音の主な原因となる.一方,乱流がもつ強い拡散性と混合性は,燃焼と伝熱,洗浄の効率向上に使われている.乱流を正確に理解し,予測及び抑制する技術は,流体機械の安定化と高効率化の実現に欠かせない.本稿では,乱流渦の中で工業的に重要度が高い吸込水槽内の渦に関して,荏原製作所の研究開発を振り返った.また,吸込水槽内に生じる渦の中で,水中渦のアクティブ制御技術を開発するため,モード解析を応用した研究事例を紹介した.流体力学とデータサイエンスの融合が,潜んでいる乱流の特徴を明らかにし,乱流制御技術の更なる発展につながることを期待する.

代表図

研究事例3「基板(ウェーハ)洗浄・乾燥に関する基礎的研究」

Abstract  [link] 
 本研究では,半導体製造工程の一つであるCMP 後のウェーハ洗浄工程について,可視化実験を通じ流体工学的な観点から,そのメカニズムを解明して,様々な条件下で最適な洗浄方法を提案できる現象のモデル化の構築を目的としている.そのため,可視化実験,流動特性,せん断流れ特性,液置換特性,液滴の蒸発・除去特性についての基礎的な研究を行っており,ここではその一部を紹介する.

代表図

研究事例4「ポンプキャビテーション現象の基礎知識(3回連載)」

Abstract(第1/3回)  [PDF link] 
 ポンプ内のキャビテーション現象に関し基礎的な内容を紹介する.まずキャビテーションの発生について,水の飽和蒸気圧線図に基づき解説する.水が,その温度によって決まる飽和蒸気圧まで圧力が低下すると,激しい気化現象を起こす.これがキャビテーションの発生原理である.流体管路中においては,絞り部などで増速し,同時に静圧が低下し飽和蒸気圧まで下がるとキャビテーションが発生する.ポンプにおいては,翼負圧面で圧力が低下し,キャビテーションが発生するのが典型例である.このほか,バルブの急閉やポンプトリップなどの過渡的な現象においても一種のキャビテーションである水柱分離が発生する.ポンプにキャビテーションが発生する際の問題点の一つは,所望の圧力がでなくなる,揚程低下である.これと関連し,吸込性能曲線,NPSHA,NPSHRについて説明する.

Abstract(第2/3回)  [PDF link] 
 ポンプにキャビテーションが発生する際の問題点の一つである振動,騒音現象に関し解説する.キャビテーション気泡の圧縮性によって流体中にバネ要素が発生する.単一気泡に関しては挙動を示すRayleigh-Plesset方程式がある.ポンプ全体では,連続の式とキャビテーションコンプライアンスとマスフローゲインファクター,管路系の集中定数モデルの組合せで挙動が解析されている.キャビテーション気泡が多様な周波数で振動することによって広帯域なキャビテーション騒音が発生する.ポンプの中のキャビテーション気泡全体が低周波数で振動する現象がキャビテーションサージと呼ばれる一次元的な不安定現象である.三次元的な不安定現象として旋回キャビテーション,交互翼キャビテーション等が発生する.インデューサに発生するキャビテーション不安定に関し,多くの研究がなされている.

Abstract(第3/3回)  [PDF link] 
 ポンプにキャビテーションが発生する際の問題点として壊食に関し解説する.周囲の圧力が高い領域に流入した低圧の単一球形気泡は,急激に収縮し,最終的に気泡が崩壊する際に高圧の圧力波が発生し,周囲の固体に伝播する.壁面に近く,気泡が非球形に変形する場合は,壁面方向に向かうマイクロジェットが発生し,壁面に衝突する.さらに多数個の気泡の崩壊が繰り返される状況では,物体表面には多数回の荷重印加が生じ壊食が生じる.材料特性として耐壊食性を評価するため,材料のキャビテーション壊食試験法に関しては,ASTMG32,及びASTMG134という二つの規格が制定されている.耐壊食性にすぐれた材料や部分的な肉盛り溶接等を使うことによって,ポンプの壊食を低減することができる.今後,数値解析による壊食予測の進展が期待される.

代表図

終わりに

 荏原製作所における研究所の変遷と現在の研究体制について紹介しました.荏原総合研究所の時代は事業部と研究所の間に距離がありましたが,現在は緊密な協力関係を築けています.そのもっとも大きな要因は,EOLの仕組みにあります.EOLには事業部の製品開発を担うのと同時に,自ら研究テーマを持ってEOLで研究を行う兼務研究者がいます.事業部にとって必要な研究テーマを,事業部所属の兼務研究者がコーポレート所属の専任研究者と協力して研究を行うことにより,人と人の繋がりが出来るとともに,お互いに事業や研究の状況が分かるようになりました.

 荏原式研究体制のキーワードは「Open」です.社内や社外にも開けた研究組織にすることで,社外の異分野の研究者とのコラボレーションや,事業の枠を超えた連携が実現しています.これからも時代や当社に合った研究体制を進化させ続けます.

引用元
(1)荏原グループ統合報告書2018を参考
(2)荏原製作所Corporate Profileより転載
(3)グループ報『荏原だより』No.58秋号(2018年10月31日発行)より転載

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更新日:2019.9.3