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九州大学流体制御研究室へようこそ!(渡邉・津田研究室)


写真: https://www.mech.kyushu-u.ac.jp/~flow/member.html(九州大学流体制御研究室HP)より
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九州大学流体制御研究室の歴史・概要

 九州大学流体制御研究室へようこそ!

  私たちの研究室は,1911年の九州大学の創立以来,100年以上に渡る歴史と伝統を有する研究室です.現在は,ポンプや水車に代表される「水力機械」(特に羽根車が回転することで流体と機械の間のエネルギー交換を行う“ターボ形”と呼ばれる機械)と,水力機械でしばしば発生して問題になる「キャビテーション」と呼ばれる気液相変化を伴う現象の,2つを大きな研究対象としています.水力機械の代表としてはポンプと水車がありますが,前者は流体(ひいてはエネルギー)の輸送の中核をなす機械という点で,後者は水力発電(力学的エネルギー→電気的エネルギーへの変換)の心臓部を担う機械という点で,どちらも私たちの社会基盤を支える身近でかつ極めて重要な機械の一つです.つまり,水力機械はエネルギー輸送やエネルギー変換の中核を担っているわけですが,SDGsが人類共通のテーマとなる中,水力機械の高効率化や高信頼化はますます重要な課題の一つになってきています.一方,キャビテーションは沸騰と同様に液体が気化する現象ですが,流れが加速している場所などにおける圧力低下が原因で生じる気化現象であり,特に高速で回転するターボ形の水力機械で発生しやすくなります.キャビテーションが発生すると,機械の性能が大きく低下するだけでなく,振動や騒音が大きくなったり,機械の寿命が短くなったりするため,悪影響をもたらすことが多いのが実情です.多くの水力機械が,小形高速化を推し進めてきている(つまり流れの加速が生じやすくなってきている)中,キャビテーションの問題はこれまで以上に真剣に向き合うべき課題となっています.

 「水力機械」と「キャビテーション」について,私たちの研究室で進めている具体的な研究テーマを,図1に示しています(ご参考まで学生室・実験室の写真も添えています).なお,図の縦方向については,上側に行くほど応用色の強い研究を,図の横方向については,左側に行くほど時空間スケールの大きいものを,それぞれ並べています.まず,「水力機械」については,後述するように多段遠心ポンプや小形水車の研究を行っております.また,「キャビテーション」については,水力機械の一つであるターボポンプ内部のキャビテーションから,二次元縮小拡大流路の内部や翼周りで発生するキャビテーション,さらには非常に時空間スケールの小さい気泡核やナノスケール(分子スケール)の気液界面に関連した研究まで,幅広く行っています.また,多くの研究テーマについて,実験および計算流体力学(Computational Fluid Dynamics,CFD)に基づく数値計算(あるいは理論)の両面から,アプローチしています.


図1 九州大学流体制御研究室における研究テーマ(下側は学生室・実験室の写真) 
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 続いて,図1に示されているいくつかの研究テーマについて,具体的に紹介いたします.

各研究テーマの紹介

水力機械の高性能化・高効率化・高信頼化に関する研究

高い吐出圧を有する多段遠心ポンプの内部流れおよび流体力の解明

 水力機械の代表の一つであるターボ形のポンプには,大きく分けて軸流式・斜流式・遠心式の3つのタイプがあります.このうち,本研究では遠心式と呼ばれる形状の羽根車を直列に3つ並べた,三段遠心ポンプ(多段遠心ポンプの一つ)の内部流れを対象とした研究を進めています.これはポンプの出口部において非常に高い吐出圧力を得られるポンプであり,現在,発電所や産業用プラントなどで使用されています.しかしながら,ポンプ内部の流体が高圧化するがゆえに,羽根車を保持するための軸受の破損などが懸念される機械です.そこで本研究では,多段遠心ポンプの内部の圧力や軸系に作用する流体力を計測するとともに,CFD解析により,ポンプ内部の様々な場所で発生している流動の様相や圧力の空間分布,軸系に作用する流体力の予測を行ってきています(図2).これにより,高吐出圧ポンプの高信頼設計にフィードバックできる知見の獲得を目指しています.なお,上記に加えて,今後はポンプ内部で発生するキャビテーションの実験およびCFD解析も実施する予定です.


図2 多段遠心ポンプの実験(左)およびCFD(右) ▲図をクリックして拡大
(とくに,製作・組立誤差によって生じる羽根車を含む軸系の位置のずれや,軸系と静止部の各間隙部の寸法は流体力特性に大きな影響を及ぼすため,それらの影響の予測を目指した研究を行っています.)

小水力エネルギーを利用した小形水車の高出力化

 水車は水力発電に用いられる水力機械であり,私たちの生活に欠かせない,エネルギー変換の重要な要素を担う機械です.これまで,ダムなどに設置される大形の水車については多数の研究が行われ,多くの知見を得てきております.一方,大型水車を利用するダムについては大規模な開発を伴うことから環境負荷も大きく,近年は小形の水車(小水力発電)が注目されてきています.とくに,河川や用水路は水力としての未利用地点が多く,それらが積極的に活用されればローカルな電源としても非常に有用です.しかしながら,低落差に有効な水車は実現されておらず,流体から得られる出力が非常に小さいことが大きな課題として挙げられます.そこで本研究では,図3に示す「ダリウス形」および「サボニウス形」と呼ばれる二種類の水車を対象に,実環境である開水路での運転を想定した小形水車の出力向上を目指した研究を進めています.

 ダリウス形については,水路内における水車の設置位置が出力に及ぼす影響を実験的に評価するとともに,水車に水を導くための案内板(ガイド)を水車上流に設置することでその出力向上を目指す検討を CFD解析により進めています.一方,サボニウス形については,水路で生じる自由表面(大気と水の境界面)と水車の距離が水車の出力に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,実験による研究を進めています.なお,どちらの水車の形状も,もともとは風車への活用を目的として提案されたものです.風車は外部流れ(対象物の周囲に流体だけがある状態)になる一方,本研究で対象としている水車は,水車近くにある流路の壁面の影響を受ける内部流れ(対象物の周囲が固体壁で囲まれた流れ)となっており,かつ,自由表面の影響も大きく受ける点が,研究対象として難しくかつ面白い部分となっています.


図3 未利用低落差水力の有効利用に向けた小形水車の研究  ▲図をクリックして拡大

キャビテーション現象の詳細解明に向けた研究

実験によるキャビテーション現象の詳細理解およびCFDの予測精度向上

 キャビテーションについては,100年以上に渡って様々な研究が行われてきておりますが,未だに十分な現象解明には至っておりません.これは,特に流れの中で生じるキャビテーションの場合,気泡の発生(初生)に続いて生じる様々な素過程(膨張・合体・分裂・崩壊など)が,乱流場の中で複雑な挙動を示すためです.特に,流体機械の内部で生じるキャビテーションの場合,そもそも機械の形状自体も複雑であることから,未だに現象の詳細予測が困難な対象となっています.私たちの研究室では,これまでに「インデューサ」と呼ばれる補助ポンプ内部で生じるキャビテーションや,自動車エンジンに搭載されているトルクコンバーターで生じるキャビテーションに関する研究を,企業との共同研究も含めて実施してきております.一方,キャビテーションの本質的な解明のためには,より単純な流れ場で現象を詳細に把握・理解することも重要です.

  以上の点を踏まえて,単純な絞り部のみを有する二次元縮小拡大流路の内部や,翼周りで発生するキャビテーション流れを対象とした基礎研究を,実験とCFDの両面から行ってきています(図4).

 実験においては,可視化観察に加え,キャビテーション発生下における固体壁面の圧力計測や,翼が受ける流体力の計測を通して,キャビテーションの非定常挙動と流体力の詳細な関係を,実験的に調べています.また,水中には空気が溶け込んでおりますが,水中の溶存空気がキャビテーションの非定常挙動に及ぼす影響や,気泡内部の圧力などに及ぼす影響も調べています.

 また,複雑なキャビテーションの挙動を事前に予測することは,水力機械の設計の高効率化や高信頼化を図るうえでも重要です.そこで,キャビテーション現象をCFD計算により正確に予測できるようにするための研究も進めています.具体的には,気泡の様々な素過程を考慮した物理モデルの開発・改良,水中の溶存空気の影響のモデリング,乱流場を詳細に解像したCFD(Wall-Resolved LES(WRLES)と呼ばれる高解像度のCFD)計算の実施,などを行っております.


図4 キャビテーション現象の基礎実験(左)およびCFD・モデリング(右) ▲図をクリックして拡大

気泡核や気液ナノ界面を対象としたミクロな観点からの研究

 キャビテーション気泡の発生(初生)や崩壊は,肉眼で捉えられる気泡径よりも小さな空間スケールで生じています.しかしながら,そもそも気泡の初生はどのようにして起こるのか,また,気泡の崩壊時にどのような現象が生じているのかについて,実は完全な理解はなされていません.一般に水の場合には,「気泡核」と呼ばれる小さな空気泡(1~100マイクロメートルのオーダーの直径)が,低圧場で膨張を開始するためと言われています.実際にこのこと自体は正しいと考えられておりますが,そもそもこのような気泡核がどのような過程を経て形成されているのかは,未だによくわかっておりません.また,最近では「ナノバブル」と呼ばれる,0.1マイクロメートル(100ナノメートル)のオーダーの超微小の空気泡が固体壁面に安定に付着していることが知られておりますが,このようなナノバブルが,気泡核の起源になっている可能性もあります.

 本研究では,このような疑問に対する解答をミクロスケールの視点から与えることを目指して,分子動力学法と呼ばれる原子・分子の運動に注目した数値シミュレーションや理論解析を行ってきています.図5の上側には,一辺の長さが約100nmの立方体の計算領域の中で発生している 10ナノメートル(0.01マイクロメートル)程度の気泡核のクラスターが,時間変化していく様相を分子動力学シミュレーションにより模擬した例を示しています.

 一方,水以外の流体における気泡の初生メカニズムも,実はよくわかっておりません.本研究室では,クリーンエネルギーとしても注目されている水素を対象に,液体水素中における気泡初生の様相を数値的に解き明かす研究も行っています.ちなみに,多くの流体中の分子運動はまず古典力学に従いますが,液体水素中の分子挙動は古典力学には従わず,量子力学的な性質(粒子性だけでなく波動性)を示すことが知られています.特に現在は,このような量子力学的な性質が気泡核の生成にどのような影響をもたらすのかを,量子分子動力学シミュレーションおよび理論解析により,解明しようとしています.また,気泡の境界面(気液界面)においては,蒸発/凝縮と呼ばれる相変化,すなわち物質の移動が生じていますが,分子の蒸発や凝縮の速度を実験的に正確に評価するのは容易ではありません.そこで,図5の下側のように,水素の気液界面における蒸発速度(蒸発流束)を量子分子動力学シミュレーションにより明らかにする研究も実施しています.


図5 キャビテーションの微視的プロセスの解明を目的とした数値的研究 ▲図をクリックして拡大

おわりに

 本研究室では,流体工学に対する基礎研究の視点を大切にしながら,「水力機械」の高信頼化・高効率化を通じた社会貢献をすべく,教育・研究を進めております.また,企業との共同研究に加え,社会人博士課程の方の受け入れも積極的に行ってきておりますので,ご興味のある方はぜひお気軽にご連絡ください.

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更新日:2021.11.10