部門賞

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第97期 (2019年度)流体工学部門 部門賞

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部門賞


望月 信介(山口大学)

受賞理由

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,乱流境界層の解析や壁面噴流の制御、新しい流体計測法の開発など多数の卓越した業績を挙げた.また,流体工学部門の活動に積極的に参画し,流体工学部門の活性化に多大なる貢献をした.

受賞のコメント

 この度は名誉ある賞を授与いただき誠にありがとうございます。乱流境界層の研究を続けて35年、壁法則の魅力に取りつかれて実験を続けてきました。平凡な成果ばかりですが、テクノロジーの進化による後押しのお陰で実験手法の発展、とりわけ壁面せん断応力の計測に関する技術の開発に貢献することができたのではと考えております。敬遠されがちな直接測定装置を実用化し、境界層の整構造のモデル化と摩擦抵抗低減技術の開発に寄与することができました。最近では、巧みな取り扱いを必要とせず、かつ高精度に計測できる手法の考案にも努めています。

 近年、計算機によるシミュレーションの発展には目覚ましいものがあり、2020年には富岳が稼働する予定になっています。以前は実験を再現することがシミュレーションの目標とされていましたが、ここ数年では実験では思いつかない条件によるシミュレーションに興味深い現象が見いだされ、検証が必要とされることが多くなったように感じています。これをCFDとEFDの新しい関係と捉え、実験技術にも更なる進化が必要と認識するようになりました。リブレット等による抵抗低減にもシミュレーションにより最適化形状が提案されており、検証のために測定精度を2桁向上させた測定装置が必要とされ、研究者としての残りの時間をその開発に取り組みたいと考えています。

 流体力学の発展に僅かながらでも貢献できたことは喜びでございます。この受賞に感謝し、将来の流体工学の発展を担う若手の育成に尽力していきたいと考えておりますので、引き続きご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

部門賞


加藤 健司(大阪市立大学)

受賞理由

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,実験および理論解析による液滴の濡れに関するメカニズムの解明,波力発電システムの開発など多数の卓越した業績を挙げた.

受賞のコメント

 この度は栄えある流体工学部門賞をいただき,大変恐縮しつつ,光栄に思っております.関係の皆さまにあつく御礼申し上げます.

 名古屋大学熱機関研究室の学生として,藤田秀臣先生の下,円柱外壁を流下する液膜流れの実験に携わったのが,私の研究生活の始まりでした.当時の実験法として,マイクロメータヘッドに取り付けた触針で液膜厚さを測定する手法がありました.針先と液膜に電位差を与え,針が液に接触した際の信号から液膜厚さを測定するという,今となっては古典的な方法ですが,液流量が小さいとき,たまたま針にくっついた液がなかなか離れないことに素朴な興味を持ったのが,ぬれの問題に関わるきっかけとなりました.当初はぬれのことなどまったく分からず,若さもあり興味本位のみで,博士課程修了後にこのテーマを始めました.当時はなじみのある力学的な観点から界面を扱った書籍がほとんどなく,小野周先生執筆のA5版100頁程度の小冊子を何度も読み返したのを覚えています.その後,今日に至るまでぬれが関わる流体工学の現象に関わってきましたが,素朴なエネルギー平衡や力学の考えを,対象ごとに色々使い分けて考えるのが自分の性に合っており,つい年月を過ごしてしまったのが実感です.

 10年ほど前より,将来大事となるテーマを持ちたいとの欲求から,波力発電の研究に取り組んできました.他分野の方々との共同研究を通じ,特に海岸工学の先生や発電に関わる技術者の方からは,地元との折衝など機械技術者が知らない社会構造に触れることができ,色々な意味で勉強になっています.現在は政府関連の波力エネルギーへの投資が少ない状況ですが,地道な技術の蓄積が意味を持つことを信じ,研究を続けて行きたいと思っております.

 最近の若い先生方は,業績や資金獲得の圧力に加え色々な業務があり,我々のころより余裕のない日々を過ごされていますが,研究はしんどくても,やりがいのあることを行うのが基本だと信じています.純粋な興味から自発的に集まった研究仲間同士の会合は,たとえ議論が沸騰しても楽しいものです.微力ながら,こうした環境の準備に少しでも役立つことが,年長者の仕事だと思っております.

 最後になりましたが,これまでご教示,ご協力いただいた諸先生方ならびに学生諸君に心より感謝申し上げます.

部門賞


冨山 明男(神戸大学)

受賞理由

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,気液二相流の数値解析などの複雑流体現象のモデリングとシミュレーションなどで多数の卓越した業績を挙げた.

受賞のコメント

 東京工業大学の原子炉工学研究所において、恩師の高橋亮一先生に卒業研究課題として流れの数値計算手法の精度・安定性解析を与えられ、修士課程では原子炉配管破断時の水・蒸気二相流計算手法の数理的解析に取り組みました。その後、日立製作所エネルギー研究所において沸騰水型原子炉燃料集合体のドライアウト現象の予測に取り組み、次第に混相流の複雑さや学問としての未完成さに興味を抱くようになりました。30年ほど前に神戸大学に職を得てからは、恩師の坂口忠司先生に実現象の面白さを教えていただくと同時に、数理モデルと実現象に大きな乖離があることを(おそらく今でもその状態はあまり変わらないと思いますが)実感し、自らも実験研究に取り組み始めました。多流体モデルを用いて気泡流を計算する際に、まともな揚力モデルがないため実験と計算が全く一致せず、今考えると非常にお粗末な装置でデータを取り、揚力実験式を作りました。自分としては必要に迫られてやむなく作った実験式でしたが、その研究が今まで自分が行った研究で一番評価された研究となりました。研究に対する自己満足の程度と世の中の評価は違うということを、つくづく感じました。幸か不幸か混相流は多様性と非線形性に富み、理工学的のみならず実学的にも我々の理解は未だ不十分な状況にあります。そのお陰で多岐にわたる混相流現象を対象として、40名近くの博士後期課程学生を指導しながら、共に楽しく研究を進めてきました。細川茂雄先生、林公祐先生、南川久人先生など多くの良き同僚や、故Iztok Zun教授、Gian Piero Celata博士、Paolo di Marco教授、John Thome教授など多くの海外共同研究者に恵まれたことも研究を進める上での大きな糧となっています。

 このたびの栄誉ある賞に恥じないよう、今後も混相流研究と後進の育成に励みたいと考えております。今後とも宜しくお願い申し上げます。

部門賞


田中 敏嗣(大阪大学)

受賞理由

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,固気二相流動や粉粒体流動などの混相流の分野において多数の卓越した業績を挙げた.

受賞のコメント

 この度は、日本機械学会流体工学部門賞を賜り、大変光栄に存じます。ご推薦ならびにご審査をいただきました皆様に感謝申し上げます。また、学生時代よりご指導をいただきました森川敬信先生(大阪大学名誉教授)、辻裕先生(大阪大学名誉教授)、一緒に研究をさせていただきました川口寿裕先生(関西大学)、米村茂先生(東北大学)、辻拓也先生(大阪大学)の他、研究室の卒業生の皆様に深くお礼申し上げます。

 私が大学で研究者となった1980年代には、固気二相流や粉粒体流動などの複雑な流動現象の分野では、まだ数値解析のためのモデリングや手法に関して未開の原野が拡がっており、固気二相流の数値解析の研究を切り拓かれていた辻裕先生とご一緒に仕事ができたことは幸運でした。とくに、流体工学と粉体工学の両分野を見渡せる立場で仕事ができたことで、いち早く高濃度固気二相流のDEM-CFD解析技術の開発に携わることができ、その後の計算機環境の発展により、この手法が世界中で広く使われるようになったことを感慨深く思います。粒子系混相流および粒子流動は多くの物理的因子の影響を受ける複雑な現象であり、現象を支配する物理の解明やモデリングなど、残されている課題は多くあります。若い世代の皆様にこの分野をさらに切り拓いていただくことを期待するとともに、しばらくの間ですが、少しでも貢献できればと思います。改めまして、これまで様々な局面でお世話になりました皆様、ご協力ならびにご支援をいただきました皆様に厚くお礼を申し上げます。

部門賞


蝶野 成臣(高知工科大学)

受賞理由

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,液晶の流動挙動を詳細に明らかにし,それを利用したマイクロアクチュエータの開発など顕著な業績を挙げた.また,流体工学部門の活動に積極的に参画し,流体工学部門の活性化に多大なる貢献をした.

受賞のコメント

 この度は,栄えある日本機械学会流体工学部門賞を賜り大変光栄に存じます.関係各位に心から感謝申し上げます.

 学生時代は森川敬信先生・辻裕先生のもとで混相流に関する研究をしておりましたが,福井大学に助手として採用されてからは,非ニュートン流体に関する研究を家元良幸先生の研究室で開始しました.

 1989年12月から10ヶ月間,文部省在外研究員としてカリフォルニア大学バークレー校のM.M. Denn教授の研究室に滞在する機会に恵まれ,そこで液晶という異方性流体に出会いました.液晶は,速度場と分子配向場が相互作用する複雑流体で,その構成方程式は比較的難解です.帰国してから約10年間,流れ形状と分子配向境界条件をいろいろ変えて収束解を得る研究を進めました.やがて,液晶を計算機内で流すだけの深みのない研究であることに気付き,新たな展開を模索する日々が続きました.

 棒状の液晶分子は,せん断流や伸長流といった速度こう配が存在すると,トルクを受けて向きを変えることは周知の事実です.例えば,縮小部近傍では主流方向に配向するし,拡大部直後では主流に対して垂直に配向します.1997年,高知工科大学に異動後,液晶の構成方程式について,共同研究者である辻知宏助手(当時)と検討を重ねるうちに,速度こう配が配向状態に影響するのであれば,その逆現象,すなわち液晶分子が回転して配向状態が変化すると流動が発生するのではないかと推測しました.分子の回転は電場印加で誘起できます.早速,可視化実験をしたところ予想通り流動が発生し,大変興奮したのを今でも覚えております.つまり,液晶を,電気エネルギーを運動エネルギーに変換する媒体と見なせば,マイクロアクチュエータ等,新しい機械要素を開発できます.このとき,液晶を単に流すだけの浅薄な研究から少し脱皮できたと思いました.

 液晶は,これまでディスプレイとして光学分野で利用されてきましたが,そもそも液晶は固体と液体の中間の状態です.従って,機械工学における“固体力学”や“流体力学”のように,液晶に対して力学的側面からアプローチする研究分野があっても不思議ではありません.今回の受賞を契機として,液晶の力学特性と流れ挙動をさらに深く調べたいと考えています.

  最後になりましたが,流体工学部門の益々の発展をお祈り申し上げます.
更新日:2019.3.14