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流れ 2011年4月号 目次

― 特集テーマ: 流れの夢コンテストの10年 ―

  1. 巻頭言
    (塚原,菊地,久芳)
  2. 夢コンの舞台裏と表舞台あれこれ
    松村 昌典(北見工業大学)
  3. アイデア一本を何十倍にも面白く見せる方法
    村井 祐一(北海道大学)
  4. 尺八の発音と息流ジェットの挙動の観察 ~流れの夢コンテストに参加して
    植松 洋一,鹿野 一郎,高橋 一郎(山形大学)
  5. 流れの夢コンへの挑戦
    望月 修(東洋大学)
  6. 流れの夢コンテストに参加して
    杉本 康弘,佐藤 恵一(金沢工業大学)
  7. 流れの夢コンテストへのチャレンジ ~参加者と実行委員の立場から
    鵜飼 涼太,長田 孝二,酒井 康彦(名古屋大学),久保 貴(名城大学),寺島 修(名古屋大学)
  8. 第10回流れの夢コンテストに参加して
    早水 庸隆,西田 五徳,丹波 享,石田 憲保,仲田 悟,松田 達也,安田 直幸(米子高専)
  9. 流れの夢コンテストへの挑戦と成果
    渕脇 正樹(九州工業大学)

 

尺八の発音と息流ジェットの挙動の観察 (流れの夢コンテストに参加して)

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植松洋一

山形大学工学部


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鹿野一郎
山形大学理工学研究科

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高橋一郎
山形大学理工学研究科

 

1.はじめに

 流れの夢コンテストは日本機械学会流体工学部門の主催で2001年から開催されており,2011年10月30日に第10回目のコンテストが開催された.山形大学鹿野研究室からは,1名の学生が第10回目のコンテストに初挑戦した.本学には実験を通して機械工学における基本的な知識を学習する教育プログラムとして,学部3年次に開講されるエンジニアリング創成という科目がある.そのプログラムにおいて,熱流体工学を応用したものづくり(尺八の発音原理の解明,食品の常温乾燥)を行っていた.その研究成果を発表する良い機会として挑戦した.ここでは,コンテストで好評を得た「尺八の発音と息流ジェットの挙動の観察」について紹介する.

  昨年度の第10回流れの夢コンテスト(1)のテーマは「楽しみながら流れを見る,感じる,理解する」が提示された.このテーマに対し,植松は尺八吹きの教授とラジコン飛行機の操縦が好きな准教授の薦めで,流れの可視化とフラッター現象(息流ジェットの自励振動)をキーワードに尺八の発音装置を設計,製作した.一般的に,尺八は吹奏が「首振り3年」と言われるように完璧に吹くのは難しい楽器であるといわれている.これは,尺八の発音原理が詳しくわかっていないことが原因の一つであると考えられている.この原理はエッジトーン(2)であるという説もあるが,われわれは尺八管内の圧力変動とコアンダ効果との連成作用(3)に伴うフラッター現象で発音すると考えている.以下に,尺八の発音条件(フラッター現象が発生する条件)を紹介する.

 

2.尺八の発音パラメータ

  工業では,3現主義が大切であるといわれている.すなわち,「現場に行き,現物を見て,現実を知る」ことが肝要である.これは,科学の基本である.そこで,図1に示すように,実際に尺八を吹く人の様子を詳細に観察した.尺八の発音は,唇の形状と尺八のエッジと唇との距離,尺八に吹きこむ空気量が関係すると考えられる.また,コアンダ効果が発音に不可欠な効果である(3)と考えているので,その効果を考慮したジェット噴出口(口の形状)にする必要がある.そこで,尺八の発音に関係するモデルとパラメータを抽出した(図2).R1は下唇の曲率半径[m],R2は上唇の曲率半径[m],Hは上唇と下唇の間のすき間高さ[m],l1は下唇の突き出し長さ[m],l2は尺八のエッジと下唇との距離[m],θは尺八のエッジ長さと 唇との角度[deg],hは尺八のエッジと下唇との高さ[m]Qは流量(尺八に吹きこむ空気量),uは流速を示す.図3に,一般的によく知られているエッジトーンの代表例であるリコーダの発音パラメータを示す.Hはリコーダの噴射高さ[m],hは噴射口とエッジとの高さ[m],Lは噴射口とエッジとの長さ[m],wはエッジ長さ[m],dはエッジ厚さ[m]を示す.したがって,尺八の発音パラメータはリコーダの発音パラメータに比べて,多いことがわかる.

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図1 尺八を吹く様子

図2 尺八の発音パラメータ 図3 リコーダの発音パラメータ

 

3.尺八の可視化装置(発音装置)

  図4に尺八の発音時の息流ジェットの自励振動の可視化装置を示す.この装置は,コンプレッサー,流量計,煙タンク,煙発生器,ハイトゲージ,レーザ,ノズル(唇モデル),尺八モデルから構成されている.尺八モデルは,アクリル製で,内径が□20×20 (mm),長さ545 mm,エッジ角が27°の四角柱形状となっている.ノズルは,唇を模擬した形状とコアンダ効果を考慮した形状にするために噴射口先端にR部を設けている.作動流体は空気を用いており,トレーサの煙は流動パラフィンを用いている.


図4 可視化装置(発音装置)

 

4.息流ジェットの挙動の観察

  図5に,尺八とノズルの位置関係及び息流ジェットの流れの向きを示す.このとき,尺八の発音パラメータは,R1=1.5mm,R2はR部なし,H = 0.5 mm,l1 = 1.5 mm,0 < l2 ≦ 0.6 mm,θ= 0 deg,h = 0.15 mmQ = 16 l/minである.図6に,尺八の発音時の息流ジェット(煙)の挙動を高速度カメラ(シャッタースピード2000 fps)で撮影した結果を時系列に示す.ジェットがエッジに対して水平な時点をt = 0msとする.初めに,ジェットはエッジの先端に衝突してエッジの上側(尺八管外)と下側(尺八管内)に均等に流れる(図6(a)~(c)).次の時間にはジェットはエッジの下側に偏向する(図6(d)~(e)).ジェットは再びエッジの先端に衝突してエッジの上側と下側に均等に流れる(図6(f)~(h)).その後,ジェットはエッジの上側に偏向する(図6(i)~(j)).ジェットは再びエッジの先端に衝突してエッジの上側と下側に均等に流れる(図6(k)~(m)). ジェットの流れはエッジの上側と下側に周期的に方向を変えるフラッター現象はその後も継続して発生していることがわかる(動画).これらの一連の流れは,下唇に沿って流れるコアンダ効果の影響と尺八管内の圧力変動による復元力で息流ジェットがフラッターを起こしていると考えられる.また,可視化時の息流ジェットのフラッターの振動数は200~285 Hzである.一方で,音響解析での尺八モデルの基本振動数は292~298 Hzである.したがって.尺八は唇と尺八のエッジ部の間が音源であることがいえる.


図5 尺八とノズルの位置関係及び流れの向き


図6 息流ジェットのフラッター現象
動画もあります

 

5.おわりに

  第10回流れの夢コンテストにおいて,優秀賞を受賞した.また,来場者からの多くのご意見,ご感想をいただき御礼申し上げる.今後は,発音パラメータと音色の関係を導きだす予定である.

 

参考文献

(1) 第10回流れの夢コンテスト,http://f-dream2010.yz.yamagata-u.ac.jp/
(2) Brown, G.. B., “The Vortex Motion Causing Edge Tones,” Proceedings of Physical Society, 49 (1937) pp. 493-507.
(3) 茂木俊宏,鹿野一郎,高橋一郎,“尺八の発音原理の実験的解明”,日本機械学会東北支部第40期秋季講演会講演論文集,pp.115-116
更新日:2011.4.1