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流れ 2012年12月号 目次

― 特集テーマ:産業界における流体機械 ―

  1. 巻頭言
    (小林, 吉川, 関野)
  2. 流体機械のキャビテーション性能と不安定現象に関する研究
    渡邉 聡 (九州大学)
  3. 振動水柱型波力発電システム
    鈴木 正己 (琉球大学)
  4. ウォータージェットを用いた環境調和型エネルギー資源の開発技術
    木崎 彰久 (東北大学)
  5. プロセスガス遠心圧縮機の設計、製造の技術革新
    葉山 耕一,深作 善郎,長谷川 直幸 (株式会社 荏原エリオット)
  6. ポンプ内部流れ可視化による現象理解 ~実験と数値流体力学(CFD)のハイブリッド手法~
    宮部 正洋 (株式会社 酉島製作所)

 

流体機械のキャビテーション性能と不安定現象に関する研究


渡邉 聡
九州大学

1.はじめに

 ポンプ機場の省スペース化などの制約,省資源化などの要求により,ポンプの高比速度化,すなわち小形化・高速化が求められ続けている[1].ポンプの小形高速化においてはキャビテーションの発生が懸念され,実際,複数のポンプメーカーから,海外の案件において厳しい吸込み性能を求められることが増加している,キャビテーションによると思われる振動・過大な繰り返し応力の発生に悩まされている,などの声をちらほらと耳にする状況にある.

 流体機械のキャビテーションは,機器の性能低下,気泡または気泡群のランダムな崩壊に伴う振動・騒音,エロージョンを引き起こし[2],これらの問題は長期間の運転を必要とされる産業用ポンプにおいては致命的な問題である.また,旋回キャビテーションやキャビテーションサージなどのキャビテーション流れ場の不安定現象[3]の発生は激しい軸振動や脈動を引き起こす原因であり,短期間の運転である液体燃料ロケット用ターボポンプにおいてもシステムの健全性から許容されない.これらのキャビテーションの諸課題に関する研究は枚挙に遑がないが,いずれも十分に解明されたとは言い難いのが現状である.

  本稿では,筆者が所属する九州大学大学院工学研究院流体制御研究室において実施されているポンプのキャビテーション流れに関する研究を二例紹介する.産業界に身を置いたことのない筆者が大学で実施している研究であるため,ポンプ開発分野等の現場での課題からは幾分離れたものであるかと思われるが,何かの役に立てば幸いである.

 

2.二重反転形動翼採用によるポンプのキャビテーション性能の向上

 ポンプのキャビテーション性能の向上に際し,既存の形式のポンプの延長線上にその解があるかどうか?多少の向上は期待されるものの,キャビテーションの発生は翼周りの流れに依存するものであるから,流れ場の改善のみによる抜本的な向上は望めないと考える.キャビテーション発生による揚程低下の対策としては,主羽根車直前へのインデューサの設置が非常に有効な手段であるが,産業用ポンプにおいてはエロージョン対策を考慮したインデューサの長寿命化[4]が必須である.

  筆者らの研究室では,軸流ポンプの高比速度化を目的に,通常の後置静翼の代わりに前置動翼と逆向きに回転する後段動翼を採用する二重反転形軸流ポンプの研究開発を実施している[5]-[7].二重反転形軸流ポンプでは,後段動翼が前段動翼で付与された流速の旋回成分を圧力に回復させるだけでなく流体に直接エネルギーを与えるため(図1),一動翼当りの負荷が軽減されるともに,通常の後置静翼形軸流ポンプに比べてコンパクトとなる.二重反転形軸流ポンプを,前後段動翼の回転数を同一(Nr=Nf)として,通常の後置静翼形軸流ポンプと同一の仕様(流量,揚程)で動翼比速度一定のもとで設計すると,一動翼当りの揚程の半減に伴い前後段動翼の回転数は後置静翼形の動翼のそれに比べて1/31/2まで減ずることができ[5],吸込比速度が通常の軸流ポンプの約1.7倍まで向上することが期待される.しかしながら,図1に示した動翼前後の速度三角形から分かるように,前後段動翼の回転数を同一とした設計(青矢印)では,後段動翼への相対流入速度が前段動翼のそれに比べて大きくなるため,前段動翼により後段動翼入口圧力が増加しているのにもかかわらず後段動翼でより高いNPSH条件においてキャビテーションが発生し(図2(a)),性能低下が起こる.そこで,後段動翼を前段動翼より低い回転数(Nr<Nf)で両動翼の相対流入速度を一致させる(Wr1<Wf1,図1の赤矢印)ように設計し[6],CFD解析により吸込み性能を調査した結果を図2(b)に示す.非定常解析で評価した吸込み性能(中抜き記号)から,前後段動翼がほぼ同じNPSHで性能が低下し始めており,3%揚程低下点(NPSH3)も両動翼で一致しており,吸込み性能の最適化が図られていることが確認される.

  なお,二重反転形動翼の採用はキャビテーション性能の向上のみならず,揚程の右下がり特性による安定性,動翼の回転数制御による広流量範囲での高効率運転[7]などの利点をもたらすことが併せて分かっている.


図1 二重反転形軸流ポンプの速度三角形(後段動翼下流は省略).前後段動翼の同一回転数設計(青矢印)では後段動翼の相対流入速度が大きくなり,後段動翼でのキャビテーションによる吸込み性能の限界が懸念される.後段動翼の低回転数設計(赤矢印)により吸込み性能の最適化が期待される.


図2 二重反転形軸流ポンプのキャビテーションと吸込み性能.
(a)同一回転数設計による後段動翼のキャビテーションの初生.
(b)後段動翼を低回転数で設計した際のCFD解析による吸込み性能の予測.

 

3.入口偏流付与によるキャビテーションサージの抑制と特異な吸込み性能

  インデューサに発生するキャビテーション不安定現象の研究は液体燃料ロケット用ターボポンプを主対象に活発に研究されてきており,実機では段付きケーシングの採用[8]や上流配管へのアキュムレータの設置により不安定現象は回避されている.筆者らは,産業用ポンプでは過大流量から締切り条件までの幅広い運転範囲での安定運転が要求されることから,低流量で発生するキャビテーションサージまで研究対象に含め,インデューサの上流への障害板の設置がキャビテーションサージに有効であることを実験的に示している[9].図3はその一例であり,入口偏流を与えることによりキャビテーションによる翼間流路の同時閉塞を妨げることを目的に非軸対称な障害板をインデューサ上流に設置し,キャビテーションサージ発生領域を大幅に狭域化することに成功している.また,図4に非軸対称障害板の設置の有無による吸込み性能の違いを示す[10].図から,非軸対称障害板を設置した場合には,低流量運転時において揚程の急低下の直前に揚程の微増が確認される.筆者らは,このような揚程の特異な上昇のメカニズムの解明が,より高性能なインデューサ開発に対する知見を与えうるものと考え,マルチカメラ撮影によるインデューサ全周のキャビティ挙動の観察[11],位相固定法によるケーシング壁面静圧のアンサンブル平均分布計測(図5[12]),CFD解析などを実施している.


図3 インデューサ上流への非軸対称障害板設置によるキャビテーションサージの抑制効果.



図4 インデューサ上流への非軸対称障害板設置の有無による吸込み性能の違い
(左:障害板なし,右:障害板有)



図5 キャビテーションによる特異な揚程上昇発生時の入口非軸対称障害板付き
インデューサのケーシング壁面静圧分布.

 

4.おわりに

  最近の計算機性能の著しい向上とCFD解析技術の発達に伴い,流体機械の複雑な内部流れにおけるキャビテーションの解析が可能となってきている.しかしながら,その精度はまだ十分ではなく,実際,ターボ機械協会コンソーシアムプロジェクト「CFDによるターボ機械のキャビテーション予測手法の高度化」(2009~2011年度)により,キャビテーション時の単独翼の揚抗力特性でさえ既提案のキャビテーションモデルの予測精度は低いことが指摘されている[13].古い文献,教科書をあさってみても,キャビテーション流れ場と揚抗力特性の関係を明確にした記述は一切なく,まだ解明されていない基礎的問題の一つであろう.筆者はキャビテーション流れ場の忠実な再現なくして,翼形の揚抗力特性や流体機械の吸込み性能,更には不安定現象やエロージョン予測の確立は困難であろうとの考えから,今更ではあるが,単独翼形の揚抗力とキャビテーション非定常挙動との関係を実験的に再考し始めている[14]

  本稿で紹介した研究成果は九州大学大学院工学研究院流体制御研究室の教職員・学生の貢献により得られたものである.関係者各位に謝意を表す.

 

参考文献

[1] 和田章弘・内田貞雄,とりしまレビュー,13,(1999),32-35.
[2] 加藤洋治,新版キャビテーション,槇書店,(2000).
[3] Y. Tsujimoto, et al., AIAA J. Prop. and Power, 17-3, (2001), 636-643.
[4] 前田学・ほか2名,機講論,73-7,(1998),34-35.
[5] 古川明徳,渡邉聡,ターボ機械,34-7,(2006),399-403.
[6] L.-L. Cao et al., Proc. ISFMFE2012, (2012), REF-1150.
[7] 百﨑晋平・ほか4名,ターボ機械,39-2,(2011),119-125.
[8] K. Kamijo et al., AIAA J. Prop. and Power, 9, (1993), 819–826.
[9] 渡邉聡・ほか4名,ターボ機械,32-2,(2004),94-100.
[10] 渡邉聡・ほか4名,機構論,12-40,(2012),171-172.
[11] J.-H. Kim et al., J. of Fluid Machinery and Systems, 3-2, (2010), 122-128.
[12] Y. Uchinono et al., Proc. CAV2012, (2012), No. 246.
[13] C. Kato, Proc. AJK2011, (2011), AJK2011-06084.
[14] 渡邉聡・ほか3名,キャビテーションに関するシンポジウム(第16回)講演論文集,(2012),B2-02.
更新日:2012.12.14