流れ 2018年1月号 目次
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機能性流体工学の研究展開
西山 秀哉
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1. はじめに
著者が東北大学流体科学研究所を拠点として1989年から「機能性流体」に関わってきた研究展開を総括し,流体工学分野の次世代へのメッセージを送ることを目的とする.それまでは,神山新一東北大学名誉教授を中心として,磁性流体研究連絡会で研究コミュニティを組織し、磁場に応答する「磁性流体」に関して,磁場下の管内流動特性やダンパ,エネルギー変換機器への応用研究が展開されてきた.著者の代になり,多くの機能性を有する「プラズマ流体」と磁気レオロジー効果を有する「磁気粘性流体」やその他の機能性流体を対象に拡張し,本学会でのOS,WSや先端技術フォーラム, さらには,研究分科会(1)(2),国際学会(3)等で,国内外において啓蒙的研究展開を計った.本稿では,機能性流体と電磁機能流動システムの概念を提示し,著者の29年にわたるプラズマ流体とMR流体を対象とした機能性流体工学の研究展開を概説し,将来展望も提言する.
2. 機能性流体と電磁機能流動システム
図1に著者が提唱した機能性流体工学の先端融合化を示す(1).機能性流体工学の先端領域で化学反応工学,ナノ・マイクロ科学,材料科学,制御工学等の異分野と融合することにより基礎的な新領域を創成し,計算と実験の統合解析により環境・エネルギー,ナノ・マイクロ材料プロセス,医療・福祉へと応用研究を展開する.
図2に機能性流体と電磁機能流動システムの構築について示す.機能性流体は,プラズマ流体,磁性流体,MR流体,ER流体,イオン液体等,電磁場を中心とした外場に対し,流体構造が応答し,その物性や熱流体力学的特性が変化する流体である(4)(5).電磁場,光場,熱流動場,濃度場,圧力場の外場に応答し,環境・エネルギー,材料プロセス,バイオデバイス等に応用するための電磁機能流動システムの構築には,2つの方法がある(6)(7).1つは,「機能性流体と微粒子,液滴,気泡との分散混相化による相変化を伴う時空間ナノ・マイクロスケールの運動量およびエネルギー変換」である.2つ目は,「機能性流体と気液界面,材料表面や生体表面で時空間ナノ・マイクロスケールの化学反応」である.これら2つのアプローチは,状況に応じてお互いに相互作用やハイブリッド化もある.以上,混相流動および機能性流動下で,機能性流体と各要素との時空間ナノ・マイクロスケールでの相互作用を制御し,これらを統合することにより外場に応答しマクロスケール性能を発揮する電磁機能流動システムの構築が可能となる。
Figure 1 Cutting edge of functional fluids engineering by fusion.
Figure 2 Establishment of electromagnetic functional flow systems.
3. 機能性流体のフロンティア研究
図3に機能性流体のフロンティア研究実施例を示す.
Figure 3 Research frontier of functional fluids.
3・1 プラズマ流体
プラズマ流体は,電子,正負イオンの荷電粒子やラジカル等の活性種から構成される多成分系の反応性流体である.これらにより,電磁場応答性,高エネルギー密度,化学反応性,変物性等,多くの機能性を発現する多機能性流体である.電磁場効果は,流動場に影響のあるローレンツ力や静電気力,また,温度場に影響のあるジュール熱に起因する.また,化学反応性は,濃度場に影響のある活性種や励起種に起因する.プラズマ流体は,作動圧力によりその機能性が大きく変化し,大気圧近傍での高密度プラズマ流体には,熱源としての熱プラズマ流体,化学反応源としての非熱プラズマ流体,また,10−2~10−5気圧程度の低圧下では,電子温度がガス温度よりも高い低温低密度の熱非平衡プラズマ流体がある.
以下に著者らのこれまでの代表的な研究成果を紹介する.「プラズマ流体とナノ・マイクロ粒子との混相化」では,プラズマ溶射プロセスの仮想数値実験による電磁場制御性能と作動条件および粒子注入条件の最適化(8),コールドスプレープロセスの静電制御性能(9),高周波誘導プラズマ流のナノ粒子創製プロセスの最適化(10)がある.
電磁機能流動システムとしては,熱非平衡プラズマジェットの安定化定値制御システム構築(11),著者らが開発した低電力型DC-RFハイブリッドプラズマ流動システムによる微粒子球形化プロセスや光触媒微粒子の高機能化(12)(13),アルゴン・水ハイブリッド安定化アークの数値シミュレーションがある(14). また,DBDプラズマアクチュエータチューブの誘起流によるナノ粒子の搬送と発生オゾンによる表面浄化もある(15).
混相流動系で「プラズマ流体と気液界面での化学反応」では,気液界面内外でのラジカルに着目したパルス放電気泡プラズマジェット(16)やミストDBDプラズマチューブ(17),さらには細管内プラズマポンプ(18)による処理液やミストの輸送および酢酸等の難分解性物質の分解,また,溶接で固液共存相を考慮したアークと溶融池界面との干渉(19)がある.「プラズマ流体と材料表面での化学反応」では,DBD支援アークジェットシステムによる表面処理(20)もある.
一方,プラズマ流体自身の反応性流体として,ナノ・マイクロパルスDBDプラズマジェットによる燃焼促進(21),熱源としてのアーク小型ガス遮断器の短時間冷却シミュレーションもある(22).
3・2 MR流体・磁性流体
磁性流体・MR流体は,磁場に応答するレオロジー流体で,それぞれ磁気体積力が支配的で流動性のあるニュートン流体,また,弱磁場下でもクラスターが容易に形成できる非ニュートン流体である(4)(5).
MR流体は,降伏応力前後で半固体と流動性を示す粒子状物質と考えられ,磁場強度によるクラスター構造とレオロジー特性(23),「MR流体と材料表面構造や材質との干渉」では,MR流体流動と流動管内壁粗さ(24)や分岐管材質(25)との干渉に関する研究がある.最近では,プラズマ流体と磁性流体の融合化として,磁性流体スパイクを電極に用いた界面流動と放電に関する研究(26)もある.
4. おわりに
著者が1989年より日本機械学会流体工学部門等を中心に研究展開してきた機能性流体の概念や電磁機能流動システムの構築に関して概説した.次いで,時空間ナノ・マイクロスケールで,機能性流体と微粒子・液滴・気泡との分散混相化,あるいは,機能性流体と界面・表面での化学反応および干渉を活用したこれまで一連の機能性流体フロンティア研究をプラズマ流体およびMR流体・磁性流体について紹介した.
次世代研究者には,ダイナミクスを中心とする流体工学と時空間マルチスケールの電磁現象や化学反応と融合した新領域の創成およびそれを基盤とした環境・エネルギー,材料プロセス,バイオ等,重点分野への明確な貢献を期待したい.そのためには,開放的な環境下で国内外の異分野の研究者や技術者と積極的に交流することにより,異なった考え方やアプローチを導入し、自分固有の研究手法や研究領域(遊牧・大陸融合型研究手法)を確立することは極めて重要である.
最後に,長年にわたる研究推進にあたり,東北大学流体科学研究所佐藤岳彦教授,高奈秀匡准教授,故小山忠正助手,カンダサミ・ラマチャンドラン助手,上原聡司助教,さらには,国内外の客員教授・准教授,共同研究者や研究室の故片桐一成元技術室長,中嶋智樹技術職員,千葉美由紀さんおよび院生諸子に深く感謝を表します.
文 献