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流れ 2018年3月号 目次

― 特集テーマ:第9回日韓熱流体工学会議(TFEC9) ―

  1. 巻頭言
    (橋本,松田,朴)
  2. 平板上の遷移境界層における乱流の始まり
    福西 祐,西尾 悠,伊澤 精一郎(東北大学)吉川 穣(宮城県産業技術総合センター)
  3. E-MPS法を用いた単一溶融液滴の凝固・付着シミュレーション
    近藤 真一郎,守 裕也(東京理科大学)福島 直哉(東海大学)山本 誠(東京理科大学)
  4. PM2.5の帯電状態測定のための平行平板粒子分級器の数値シミュレーション
    米道 卓音,深潟 康二,藤岡 謙太郎,奥田 知明(慶應義塾大学)
  5. 粘弾性流体中における鞭毛螺旋模型の推進力特性に与える粘弾性マッハ数の影響
    田島 和哉,三神 史彦(千葉大学)
  6. 可変マイクロギャップ電極を用いたイオン電流場の計測
    福田 敬志,土井 謙太郎,川野 聡恭(大阪大学)

 

E-MPS法を用いた単一溶融液滴の凝固・付着シミュレーション

近藤 真一郎
東京理科大学
守 裕也 
東京理科大学
福島 直哉
東海大学
山本 誠
東京理科大学

 

はじめに

 沖縄にて開催されたThe Ninth JSME-KSME Thermal and Fluids Engineering Conference (2017年10月28日~30日) における発表について若手優秀講演フェロー賞に選んで頂き,また本ニュースレターにおいて内容を紹介する機会を与えて頂きました.この場を借りて,選考委員会および日本機械学会の皆様に御礼申し上げます.以下,当該会議で発表したデポジション現象に関する数値計算について紹介致します.

 

1.デポジション現象

  稼働中のガスタービン内部において,吸い込まれた砂や灰などは高温の燃焼室を通過する際に溶融液滴となり,その後低温のタービン翼表面で急冷,付着,凝固する.これはデポジション現象として知られ,タービン翼では周囲流の変化による性能低下や冷却孔閉塞による冷却効率・安全性・寿命の低下を引き起こす.したがって,デポジション現象の予測はガスタービンの設計において重要である.

  これまでに,ShakeriとChandraはSnの単一溶融液滴の水平・斜行平板における付着および凝固過程を実験的に調査した[1].本研究室では,同様な系について粒子法を用いた二次元数値計算を行い,得られた堆積挙動からタービン翼前縁付近におけるデポジション特性について議論した[2].しかし,実際の液滴のデポジション過程においては三次元性が強く現れると考えられるため,本研究においては単一溶融液滴の水平・斜行平板に対するデポジション過程について先行研究を拡張し,三次元計算を行った.


Figure 1 Time series of snapshots of the deposition of the Sn droplet in the case of the collision angle of 90 degree at the collision velocity of 4 m/s

 

2.粒子法を用いた数値計算

  本研究では,図2に示す水平・斜行冷却基板への単一溶融液滴の三次元堆積挙動を調査する.参考文献[1]に合わせて,計算条件を設定した.材質をSnとした単一溶融液滴の初期直径D0は2.2 [mm],初期温度T0は519 [K] とし,初期速度V0 = 4.0 [m/s]で高さ1.2 [mm]から冷却基板へ衝突させる.基板の材質はステンレス,基板温度Twallは298 [K]とし,溶融液滴より低温とした.本計算では,基板温度は一定に保たれると仮定し,基板の温度変化は考慮しない.  


Figure 2 Initial condition of single molten droplet dropping towards cooled substrate: left, horizontal substrate; right, inclined substrate.

  数値計算手法として,粒子法の一つであるE-MPS(Explicit-Moving Particle Simulation)法[3]を用いた.粒子法は,速度や圧力といった変数を保持する有限個数の計算粒子によって連続体全体の挙動を再現する手法である.液滴の拡がりや凝固をより明瞭に捕らえることができ,界面の大変形に対応できる長所を有する.計算粒子の相互作用は計算粒子間の距離に依る重み関数で決定される.本研究室ではE-MPS法を用いた三相流計算手法も開発しており[4],工学的に幅広い応用が期待される流体計算手法である.本研究では,溶融液滴は約200,000個の計算粒子で構成されている.

  溶融液滴の凝固過程において,熱輸送は非常に重要であるため,本研究においては潜熱を考慮したモデルを用いた.図3にその概略を動画で示す.液体相の計算粒子が融点に達すると,その計算粒子は潜熱を周囲の計算粒子へと放出する.その後,潜熱放出が終わると,計算粒子は固体相として取り扱われる.


Figure 3 Schematics of a solidification model

 

3.溶融液滴の凝固付着挙動

  図4に水平基板への衝突挙動を動画で示す.ここで,液体相,液-固体相,固体相の計算粒子はそれぞれ赤色,白色及び青色で示す.溶融液滴の平板表面上への衝突,拡がり,凝固が観察され,一連の挙動はShakeriとChandraの実験結果[1]と定性的に一致した.凝固した液滴の周囲には突起のようなFinger形状が形成されることが実験的にも知られているが,本計算においてもFinger形状の形成が確認される.


Figure 4 Behavior of the deposition phenomenon of single molten Sn droplet on the cooled plane horizontal substrate.

 

  図5に斜行基板への衝突挙動を示す.ここで衝突角以外の条件は水平基盤と同一である.基板に衝突した液滴は,基板上を拡がり凝固した.水平基板への衝突と異なり,凝固は斜面上部(右上)から始まる一方で,斜面下部(左下)では液相の計算粒子が先端付近で蓄積し,凝固した後,瘤のような形状が形成された.


Figure 5 Behavior of the deposition phenomenon on the inclined substrate.

 

おわりに

  本研究では,単一溶融液滴が水平および斜行冷却基盤に衝突・凝固する挙動について,三次元E-MPS法を用いた数値計算を実施した.その結果,両基盤における凝固挙動は実験結果と定性的に一致した.今後,この結果を基に,タービン翼前縁への溶融液滴のデポジションについてのシミュレーションを実施し,タービン翼設計に関する指針を得る.

 末筆になりましたが,学会当日に会場にてご聴講して下さった皆様,貴重なご質問を頂きました皆様,選考委員会の皆様,並びに今回のニュースレターへの投稿機会を与えてくださいました日本機械学会流体工学部門の皆様に深く感謝申し上げます.

 

引用文献

[1] S. Shakeri and S. Chandra, “Splashing of Molten Tin Droplets on a Rough Steel Surface”, Int. J. Heat Mass Transfer 45, (2002), pp. 4561-4575.
[2] S. Nakamoto and M. Yamamoto, “Numerical Simulation of Deposition Phenomena of Molten Droplet”, International Conference on Particle-based Methods, (2013), 7 pp.
[3] 大地雅俊, 越塚誠一, 酒井幹夫, “自由表面流れ解析のためのMPS陽的アルゴリズムの開発”, Trans. Jpn. Soc. Comput. Eng. Sci., No. 20100013, (2010), 8 pp.
[4] Takahashi, R et al., “Development and Elaboration of Numerical Method for Simulating Gas-Liquid-Solid Three Phase Flows based on Particle Based Method.” Int. J. Comput. Fluid. Dyn., 30 (2016), pp. 120-128.
更新日:2018.3.29