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第89期 (2011年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)

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一般表彰(フロンティア表彰)


船崎 健一(岩手大学)

受賞理由:

 ターボ機械内の境界層遷移,特に,wakeによるバイパス遷移メカニズムを解明するとともに,ターボ機械に関する設計ツールを開発し,それを遷移モデルやCFDコードへ実装するなど,当該分野において先駆的な業績を挙げた.

受賞のコメント:

 この度は,日本機械学会流体工学部門からフロンティア表彰という身に余る賞を受賞する幸運に恵まれました.ご推薦頂いた皆様はもとより,関係者の皆様にも深く御礼申し上げます.受賞対象の研究テーマは,ターボ機械内の境界層遷移,特に,wakeによるバイパス遷移メカニズムの解明という,私のライフワークともいえるテーマであり,その意味で今回の受賞には感慨深いものがあります. 

 受賞対象テーマは,私の卒業研究「粘性後流列(wake)によるタービン動翼列の非定常応答」に端を発しておりますので,相当の歴史のある研究テーマと言えるでしょう.このテーマを私に与えて下さった西山哲男先生(東北大学名誉教授)には感謝するばかりです(西山先生は,現在でも精力的に活動を続けられており,大いに励まされております).さて,そのような特異点法をベースとする非定常流体力の研究を少しずつ終息させ,企業で得た経験を活かして伝熱研究,特に境界層の強制遷移現象(最近ではこれをバイパス遷移と呼んでおりますが)に展開すべく,移動円柱装置と平板翼モデルからなるごく簡単な試験装置を,文字通りゼロの状態から作り始めました.非常に優秀な学生達に恵まれたお陰で,しっかりとした試験装置から上質のデータが得られました.大胆な発想に基づいてひねり出した遷移モデルと実験データとが面白いように一致することに大変興奮したことが昨日のことのように思い出します.

 この平板翼での試験から,今まで報告例のない現象が幾つか見つかりました.特に,円柱の平板に対する相対運動の方向の違いで遷移挙動が異なるという現象は,おそらく世界ではじめて発見した現象でしょう.また,遷移を引き起こす有効なwake内乱れの敷居値(約4%)も私がはじめて提唱した値です.この他,スプリットプローブで乱流スポットの内部構造を明らかにし,バイパス遷移におけるwake内の非粘性的運動の効果についても世界に先駆けて取り組むことが出来ました.

 LESやDNSによる数値解析も盛んとなってきており,私のところでも大規模シミュレーションに取り組んでおりますが,実験の醍醐味は格別です.CFDに負けないないよう実験的手法も一層精緻化して,更なる現象解明とモデル構築を今後とも進めて参ります.ご指導方宜しくお願いします.

 最後になりましたが,この研究を支えてくれた多くの学生達に深く感謝いたします.  

一般表彰(フロンティア表彰)


川野 聡恭(大阪大学)

受賞理由:

 微小粒子を含む混相流体の数理モデリングとその工業応用に関する研究に取り組み,中空液滴, 人工臓器, プラズマディスプレイ, リチウムイオン二次電池およびDNA電子デバイスの先進設計法の確立に貢献した.

受賞のコメント:

 この度は,流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り,身に余る光栄に存じます.ご推薦頂いた先生方,関係者の皆様,ならびに,これまでご指導下さった先生方に厚く御礼申し上げます.

学生時代の思い出 ――εと暗室――

 私的なことで恐縮ですが思い出話をさせていただきます.執筆中,それは四半世紀も前と気付き自分でも驚きました.取るに足りないささやかな個人的達成感,無知故の勘違いとも呼ぶべきものが書き記されていますが,受賞を機に今一度,初心を想起したいと望んだ次第です.

  仙台での学生時代には,流体の界面現象に理論と実験の両面から取り組みました.Rayleigh JetやKelvin-Helmholtz Instabilityに代表される波動の不安定性理論によって,例えば円筒噴流の界面変動とその分裂をも見通すことが出来る数学の美しさにすっかり魅了されました.無学だった故,特殊関数や微小定数εを駆使している自分をこっそりと誇らしく思ったものです.一方,暗室でのストロボおよび短パルス光源を用いた写真撮影において,闇の中から浮かび上がるその一瞬の水面波動は,光の透過,屈折,反射および散乱によって,日常感覚からは遠く離れた幻想的な姿を私に見せてくれました.まるで源氏物語第25帖「蛍」の世へ移り住んだようです.揺蕩う透明な宇宙で,時の流れを止めたとの神秘的な思い,真理に近づいているのではという高揚感を今でも鮮明に記憶しています.暗がりの匂い,波紋の奏で,微かな空気の震えさえも心地よく蘇ります.流体の界面が織りなす詩的な美しい姿は,いつも私のすぐそばにありました.ただ,知覚の向こうには,きっとまだ何かがあるはずだと,幽径の小さな冒険者はなぜかしっかりと認識していました.紆余曲折の探求を経た現在でもその思いは同じです.しかし,それはFaust博士の苦悩とは異なり,私にとって生きる喜びそのものであります.いつの日も,流れの真理は伸ばした手のほんの少し先にあるようです.

東北を想う ――江戸時代の廻文師 仙代庵に因んで――

 現在は,生まれ故郷の大阪で,分子流体力学研究室を主催させていただいており,若く優秀なスタッフや学生に囲まれて,非常に有意義かつ落ち着いた学究生活を楽しんでいます.ここでは,近況報告の短詩をご披露いたします.

遠のくか 分子の深部 核の音

 また,第二の故郷の一刻も早い復旧・復興への願いを込めて,美しく豊かな東北の自然を詠んでみました.

川の岸 魚酒 蔵王 四季の和歌

 学術の厳密さや味わいとは無縁の駄文,浅学非才の愚かさをお許しいただけると幸甚です.最後になりましたが,東日本大震災において被災された皆様に心からお見舞い申し上げます.

一般表彰(フロンティア表彰)


村井 祐一(北海道大学)

受賞理由:

 気泡を使った乱流摩擦抵抗低減について,ラボでの基礎実験による混相乱流メカニズムの解明,効率的な気泡発生装置の発明による船舶への先駆的実用化,さらにはその性能評価のための新たな計測技術開発に貢献した.

受賞のコメント:

 この度は,流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り,大変光栄に存じます.ご推薦いただいた先生ならびにこれまで実験現場で汗を流して頂いた研究室の学生達に厚く御礼申し上げます. 北海道大学の精神として謳われるフロンティア表彰を頂くことは,最前線を走りなさいという激励として非常に心地良く,今後もますます励む所存です.

  受賞対象となった船舶の抵抗低減技術については,私が船舶や海洋の出身でないことから,それこそ独学であり,しかも現在も進行中の独学であります.一人のシロートとして船の図鑑や模型の入手も怠りません.恐れを知らない独学の強みゆえ,海技研や東大船舶,それに各造船・海運会社において幾多の方にお世話を頂きました.気泡流の数値解析を主題として15年前に博士論文を仕上げた時とはまるで生活は逆転し,外回りの実験計測屋に転職しました.その間,所属機関も3回ほど変わり,自分自身が船のように漂っているかのようです.摩擦抵抗低減に関する主な発見は,①境界層内の気泡の鉛直方向自励振動が乱流応力を相殺すること,②マイクロバブルからエアフィルムまで抵抗低減メカニズム遷移線図を完成させたこと,③ボイドの間欠発生が境界層の未発達領域を飛躍的に拡大させ,大きな抵抗低減を実現できたこと,などです.また計測技術開発では,④シート光を使わない二相乱流境界層の断層計測,⑤超音波による空間ボイド分布計測システム,⑥ブロアを必要としない水中翼型大量気泡発生装置,をそれぞれ開発し,実装化に活かされました.

 技術やエネルギーの将来は,政治・経済が決めるのではなく,工学者が創造的な時間と環境を確保されたときに発展するものだと思います.ともに頑張ろうではありませんか.そして声をかけて下さい,いつでも計測器材をもって出張致します.

更新日:2011.10.6