流れ 2026年3月号 目次
― 特集テーマ:第11回日韓熱流体工学会議(TFEC11) ―
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多重噴流の流動特性およびチャンバー内の流れ
![]() 近藤 亜寿香 ![]() 渕脇 正樹 九州工業大学 |
はじめに
2025年TFECにおいて,優秀講演賞をいただき,大変光栄に存じます.また,この度,ニュースレター執筆の機会をいただき,日本機械学会流体工学部門の皆様に心よりお礼申し上げます.本稿では,TFECの講演内容である,”多重噴流の流動特性およびチャンバー内の流れ”の一部をご紹介させていただきます.
1. 背景
多重噴流は,洗浄工程,乾燥工程,表面処理工程など,様々な製造工程に幅広く使われている.多重噴流の特性は,化学反応における物質移動などに関係する[1][2]ため,均一なノズル流速が求められている.しかしながら,既存の装置では,各ノズル流速にばらつきが生じ,一部ノズル流速が周囲のノズル流速より低下している.多重噴流は,流入口からチャンバーに液を溜めて,ノズルから噴流を噴出する構造になっている.
ノズルの噴流特性に関する先行研究[3][4]は,ジオメトリや流入条件が噴流特性に影響することを明らかにしている.しかしながら,それらは,ノズルから均一な噴流が得られる前提で評価しているため,チャンバー内の流れを捉えることができていない.Lei Yuらは,ポンプの運転に理想的な流入条件を設定するために,ガイド壁の設置による槽内部の整流を行った[5].その結果,流入条件は改善したが,流入口の液流れが流出口の液流れに与える影響は不明である.このように,チャンバー内の流れおよび多重噴流の特性は,個々で評価されているが,関連性が不透明で,ノズルから出る前の流れが,ノズルから出た後の流れに与える影響は未だ明らかにされていない.
均一な多重噴流を得るためには,チャンバー内の液流れとノズル出口の噴流特性の相関を明らかにし,それら流れを制御する必要がある.したがって,本研究の目的は,均一な噴流特性を得るために,チャンバー内の流動特性を明らかにし,その流れがノズル出口の噴流特性に与える影響を解明することである.具体的には,多重噴流の流入条件を変更し,非定常解析を行うことによって,チャンバー内の液流れを捉え,ノズル出口の噴流流速と関連付ける.
2. 解析モデル
本研究に用いたモデルをFig. 1に示す.モデルが左右対称の形状を有しているため,モデルを対称面である中央で分割し,片側のみを解析することによって,計算コストを軽減した.チャンバーのサイズは,350 mm×65 mm×20 mm (長さx×幅y×高さz)である.チャンバーから垂直に伸びる複数のノズル径はすべてφ0.8 mmである.解析条件をTable 1に示す.平行な複数の流れは,距離や流速に応じて相互に影響し合うことが知られている[6].本モデルは,内部構造を変更することが容易ではないため,構造ではなく,流れの干渉を変化させることによって,チャンバー内の流れを変更する.したがって,流入流速比の変更による,チャンバー内の液流れの変化を明らかにするために,総流入流量は一定(Q = 110L/min)として,2つの流入流速比を与える.流入口Vaおよび流入口Vbの流速の比を,Va:Vb = 1:1および1:2とした.流体は水とし,出口条件に大気圧を与える.計算格子は,四面体メッシュを用い,モデルの計算格子数は,1.11×107である.計算格子サイズは,1.82×10-2 mとした.乱流モデルは汎用性の高いk-εとした.時間刻み幅および総解析時間は,それぞれΔt = 5.24×10-3 sおよびT = 5.20 sとして,非定常解析を行った.

Fig. 1 Analysis model
Table 1 Analysis conditions
| Property | Value |
Velocity [m/s] |
(i) Va:Vb = 1:1:Va = 3.46, Vb = 3.46 |
Total flow rate [L/min] |
110 |
Turbulence Models |
k-ε |
Time step Δt [×10-3 s] |
5.24 |
Total time T [s] |
5.20 |
Element Size [×10-2 m] |
1.82 |
Total number of mesh [×107] |
1.11 |
3. 結果および考察
ノズル断面A’B’C’D’における,ノズル内の圧力分布およびノズル出口の速度ベクトルをFig. 2に示す.(a)は評価断面を示し,(b)および(c)はそれぞれVa:Vb = 1:1および1:2の結果を示す. Va:Vb = 1:1(Fig. 2 (b))のとき,赤枠a’内のノズル入口側の圧力が周囲よりも低下し,それに伴い,ノズル流速も低下している.また,ノズル入口側の圧力変動およびノズル流速の時間変動は大きいことが分かった.一方で,Va:Vb = 1:2(Fig.2 (c))のとき,赤枠a’内のノズル入口側の圧力が周囲と同程度になり,それに伴い,ノズル流速も周囲と同程度になった.また,ノズル入口側の圧力変動およびノズル流速の時間変動は小さいことが分かった.ノズル出入口の圧力差とノズル出口側の流速の相関係数は,それぞれ(b) 0.998および(c) 0.986だった.よって,ノズル出入口の圧力差およびノズル流速の間には強い正の相関があると言える.
(a) Evaluation cross section (c) Va:Vb = 1:2 (Q = 110 L/min)
Fig. 2 Pressure distribution in the nozzle and velocity vector at the nozzle outlet
(a) Va:Vb = 1:1 (Q = 110 L/min) (b) Va:Vb = 1:2 (Q = 110 L/min)
Fig. 3 Vorticity contour in the chamber
チャンバー内の等渦度線図をFig. 3に示す.(a)および(b)は,それぞれVa:Vb = 1:1および1:2の結果を示す.高渦度領域は,循環流れ(赤色)およびせん断流(灰色)から成る.流入口の流速比の変更によって,ノズル流速が大きく変化した箇所を赤枠b’で示す. Va:Vb = 1:1(Fig. 3 (a))のとき,赤枠b’内に,大きな高渦度領域(循環流れ)が生じていた.一方で, Va:Vb = 1:2(Fig. 3 (b))のとき,赤枠b’内に大きな高渦度領域(循環流れ)は発生しなかった.
Va:Vb = 1:1のとき,Fig. 2 (b)の低圧領域(赤枠a’)とFig. 3 (a)の高渦度領域(赤枠b’)は,位置が一致した.したがって,チャンバー内の高渦度領域の移動とともに,ノズル入口側の圧力が変動していると考える.Va:Vb = 1:1のノズル流速の標準偏差(σ = 4.2×10-2)は,Va:Vb = 1:2の標準偏差(σ = 1.5×10-2)の2.8倍である.よって,各流入口の流速を変更することで,チャンバー内の大きな循環流れの形成を抑制でき,チャンバー内の圧力分布が均一になるため,すべてのノズルから均一な流速の噴流を得ることができると言える.
4. 結言
流入口の流れの速度比を1:2にすることで,チャンバー内の圧力変動を誘起する,高渦度領域(循環流れ)の発生を抑制した.その結果,すべてのノズル入口の圧力を高く保つことができ,各ノズル流速のばらつきを抑制できる.
謝辞
末筆ながら,TFEC当日に会場にてご聴講,審査および貴重なご意見くださった皆様に心から感謝申し上げます.


