流れ 2026年3月号 目次
― 特集テーマ:第11回日韓熱流体工学会議(TFEC11) ―
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Clark-Y翼における吹出し・吸込み複合制御の実験的検証
![]() 三浦 千里 ![]() 深潟 康二 慶應義塾大学 |
1. はじめに
第11回日韓熱流体工学会議(TFEC11)における講演発表(1)に対し,日本機械学会流体工学部門より日本機械学会流体工学部門優秀講演表彰を賜りました.本稿では,講演の主題である「Clark-Y翼における吹出し・吸込み複合制御」に関する風洞実験の成果について概説いたします.
2. 背景・目的
国際化する世界において航空輸送は不可欠な輸送手段であり,経済的および環境的な問題に対処するためにエネルギー効率を向上させることが望まれている.この達成には,主に摩擦抗力と圧力抗力から成る航空機の流体抵抗を低減することが重要である.そのような抗力低減のための1つの手法として,一様吹出し(Uniform Blowing: UB)と一様吸込み(Uniform Suction: US)がある.これは図1に示すように,壁面から微量な空気の吹出し・吸込みを一様に行う制御手法であり,前者は摩擦抗力を低減し(2-4),後者は乱流への遷移を遅らせることや圧力抗力を低減する効果を持つ(5).

Fig. 1 Uniform blowing on an airfoil surface.
Ohashiら(6)は,随伴感度解析とレイノルズ平均ナビエ・ストークス(RANS)シミュレーションを用いて,翼面上のUB/USの制御位置に対する抗力と揚力の感度を調査し,翼下面前縁付近でのUBが摩擦抗力と全抗力を大幅に低減することを報告した.また,揚力への影響は最小限であることから,翼下面でのUBは巡航中の揚力を変化させずに抗力を低減するのに適していると結論付けた.この報告に基づき,Miuraら(7)はClark-Y翼に対するUBの効果を評価するために風洞実験を行った.翼下面前縁付近でUBを実施した結果,局所摩擦抵抗は最大で約50%低減したが,圧力抗力が増加したため,全抗力の有意な低減には至らなかった.さらに,Fahlandら(8)はRANSシミュレーションを用いて翼面上のUB/US制御を解析し,UB単独で全抗力を低減することは困難であると結論付けた.
以上の背景に基づき,本研究では翼の全抗力を低減し揚抗比を向上させることを目的とした,UB/US複合制御を提案する.本研究の目的は,Clark-Y翼下面前縁付近でのUBと翼上面後縁付近でのUSの同時適用により,周囲の流れと空力がどのように変化するかを風洞実験によって検証することである.検査体積を通過する正味の流れ方向運動量流束の増加を避けるため,UBとUSは同一の質量流量で適用された.制御効果を評価するために,熱線流速計を用いて後流速度分布を計測した.
3. 手法
実験には小型低乱流風洞を使用した.図2に実験装置の概要を示す.軸,
軸,
軸はそれぞれ主流方向,スパン方向,風洞底面垂直方向に設定した.
軸の原点は翼の前縁に,
軸の原点はスパン方向中心に,
軸の原点は翼の後縁に設定した.

Fig. 2 Schematic of experimental setup.
実験で使用した翼模型の概略図を図3(a)に示す.翼は翼弦長が400 mm,翼型はClark-Yである.UB/USのために内部に3つのチャンバーを有している.本研究では,翼下面の前縁付近に設置されたチャンバーを外部のコンプレッサーに接続してUBを行い,翼上面の後縁付近に設置されたチャンバーを外部のブロワーに接続してUSを行った.チャンバーは表面をポーラス材で覆われており,翼面上でのUB/USを可能にした.制御領域は図3(b)に示すように,UB/USともにスパン方向とし,UBは
にて,USは
にて実施された.

Fig. 3 Overview of the Clark-Y airfoil model:
(a) schematic of the model; b) control regions.
後流速度分布の測定に使用した熱線流速計はトラバース装置によって制御され,および
方向に移動可能とした.主流速度を測定するためのピトー管を風洞入口に設置し,流れ温度を測定するための熱電対を出口に設置した.
後流速度分布を測定するための実験条件を以下に示す.翼弦長に基づくレイノルズ数は
に設定し,迎角は0度に設定した.吹出しおよび吸込み速度は主流の0.39%に設定した.熱線流速計の
方向位置は翼下流
に,
方向位置は
に固定した.その後,
の範囲でトラバースさせた.各点は1 kHzで10秒間サンプリングされた.
熱線流速計は一般的に出力電圧と流速の関係に基づいて校正されるが,本研究では風洞内の温度変化が大きかったため,流れの温度も考慮して校正を行った.
UBとUSを同時に実施する複合制御のほか,UB/USの単独制御も実施した.
4. 結果・考察
時間平均した後流速度分布を図4に示す.平均後流速度は主流速度
で無次元化されている.図4(a)の制御と非制御ケースの分布は大まかに重なっているが,図4(b)の拡大図を見ると,制御ケースの速度欠損領域が非制御ケースと比較して下方にシフトしていることがわかる.このシフトは,流れが制御によって下向きに押しやられたことを示しており,定性的に揚力の増加を示唆している.

Fig. 4 Wake velocity profile at : (
) overview of combined control case; (
) close-up view of combined control case; (
) close-up view of UB control case; (
) close-up view of US control case.
図4(c)および(d)は,それぞれ翼下面からのUB単独制御および翼上面からのUS単独制御の結果を示している.図4(c)は,翼下面に適用されたUBが,翼下面側においてのみ後流速度分布に顕著な下方シフトを引き起こし,欠損領域を局所的に拡大させる一方で,翼上面側のプロファイルは大部分が変化しないままであることを示している.この結果は,UB制御によって境界層が持ち上げられ,運動量の流入により圧力抗力が増加することを示唆している.対照的に,図4(d)は,翼上面からのUSが翼上面側の速度分布に下方へのオフセットを引き起こし,欠損領域を減少させることを示している.この結果は,US制御によって境界層が引き下げられ,圧力抗力が減少することを示唆している.
最終的に,UB/US複合制御では,これらの個別のオフセット効果が同時に現れ,欠損領域の正味の拡大縮小は相殺される.これは図4(b)に示された結果とよく整合している.この結果は,UB/US複合制御によって揚抗比を改善できることを示唆している.
さらにUB/US複合制御の効果を定量的に評価するため,全検査体積法を用いて全抗力を
(1)
と計算した.ここで,検査体積は図5に示すように上面および下面からの流入・流出がないように設定され, 流入量と流出量が等しくなるように決定された. 制御時及び非制御時の全抗力から全抗力の変化率を計算した結果,5.2%の減少となり,複合制御による抗力への悪影響が小さいことを示した.

Fig. 5 Schematic of the control volume.
5. 結言
本研究では,風洞実験を通じて,翼下面でのUBと上面でのUSの複合制御効果を調査した.後流速度分布の測定により,複合制御によって欠損領域が下方にシフトすることを確認し,揚抗比の改善を定性的に示した.また,後流速度欠損の積分は,制御による全抗力の減少率が5.2%になったことを示した.これらの結果は,吹出し・吸込み複合制御が揚抗比改善の実用的な戦略であることを示唆した.
謝辞
末筆ながら,選考委員の皆さま,そして今回執筆の機会を与えてくださった流体工学部門の皆さまに感謝申し上げます.


